案件原価の予実管理と着地予測|実績・発注残・残工数から赤字を早期に見つける
案件の予算消化率が80%と聞いても、それだけでは順調なのか分かりません。ほぼ完了しているなら予算内に収まる可能性がありますが、重要な工程が半分残っていれば赤字の兆候です。原価の予実管理には、過去の費用だけでなく、完了までに何が残っているかという情報が必要です。
完成時原価の見込みは、実績原価、実績へ未計上の発注残、その発注残と重ならない未発注の残作業見込みを足して作ります。予算との差額に加え、追加売上が確定しているかを確認すると、納品前に価格・作業範囲・体制を見直せます。

本記事のポイント
- 完成時原価は実績・未計上発注残・その他の残作業見込みに分けて合計する。
- 予算消化率だけでなく残作業を確認し、費用の計上時期と進捗の違いを見極める。
- 予算の版を残し、超過理由と対応責任者・期限を決めて追加見積や体制変更へつなげる。
予算・実績・残見込みを別の値として持つ
原価予算は、受注時に承認した作業範囲と体制に対する費用の計画です。実績原価は、基準日までに対象案件へ計上した費用です。残見込みは、基準日以降の完了までに必要な費用です。実績が増えるたびに予算を上書きすると、当初計画からどこが変わったか分からなくなります。
当初予算と変更承認後の予算は両方残します。顧客が機能追加を正式に承認した場合は、変更番号、対象範囲、増減額、承認日を保存し、新しい予算版へ反映します。担当者が超過を避けるために見込みだけを書き換えることと、契約変更による予算改定を同じ扱いにしないようにします。
費目は、案件別原価管理で定義した労務費、外注費、直接経費などにそろえます。共通費まで含めた予算を使う場合は、実績と着地見込みにも同じ範囲を使います。直接原価の実績を、共通費込み予算と比較して余裕があると判断すると、予算超過を見逃します。
| 値 | 含める内容 | 混ぜないもの |
|---|---|---|
| 実績原価 | 基準日までの計上済み費用 | 未提供・未計上の発注残 |
| 未計上発注残 | 発注額のうち実績に含まれない残額 | 実績へ計上済みの同じ明細 |
| その他の残見込み | 残工数、未発注の外注・経費 | 発注残に含めた作業や金額 |
| 完成時原価見込み | 上記三つの合計 | 重複した請求額・支払額 |
発注残を二重に足さず、完成時原価を計算する
税抜の架空例として、原価予算80万円の案件を考えます。基準日までの実績原価が50万円、実績へ含まれていない外注発注残が15万円、その発注と重複しない残作業の見込みが25万円なら、完成時原価見込みは90万円です。当初予算に対して10万円の超過が見込まれます。
残作業25万円の内訳が、社内作業60時間に標準時間単価3,000円を掛けた18万円と、未発注の直接経費7万円だとすると、何を調整すべきか検討できます。外注発注残15万円に含まれる作業を社内の残工数にも入れると、見込みが二重になります。作業明細と発注明細を対応させ、担当範囲の重なりを確認します。
発注額20万円のうち5万円を実績計上した場合、未計上発注残は15万円です。後日さらに10万円を計上したら、実績を10万円増やすと同時に発注残を10万円減らします。完成時原価は、この振替だけでは変わりません。請求書が来るたびに見込みが増えるなら、実績と発注残の更新が連動していない可能性があります。
請求書未着でも、提供済みの作業が実績として見越計上されていれば、同じ部分を発注残へ残してはいけません。逆に、支払済みの前払金があるだけで、提供されていない役務をすべて実績原価とするわけでもありません。会計上の計上と管理上の残高の対応は経理担当者と確認し、支払いの有無だけで判定しないようにします。
残工数は担当者の感覚だけでなく、残る成果物で見直す
残工数は「進捗80%だから残り20%」という逆算だけでは精度が上がりません。未完成の成果物、未確認の仕様、未実施のテスト、顧客レビュー待ちを列挙し、それぞれに実行時間と確認時間を見積もります。作業が終わっていても受入れ条件を満たしていなければ、修正や再確認の時間が必要になる場合があります。
作業の進捗と費用の発生時期は一致しないことがあります。外注費が初期に集中する案件、最後に検収がまとまる案件では、単純な日数比例の予算線は使いにくくなります。工程別に費用が発生する計画を置き、その工程の完了条件と比較すると、費用の先行と実際の超過を分けられます。
残工数を更新する際は、前回値、今回値、増減理由、確認日、確認者を持ちます。毎週残り20時間と報告されるのに完了しない案件は、残作業の分解が足りないか、新しい依頼が追加されている可能性があります。稼働・工数管理の予定と実績を参照し、作業範囲の増加と実行速度の違いを調べます。
不確実性が大きい項目は、一つの数字へ無理に固定しません。通常の見込みと、仕様変更や再試験が起きた場合の見込みを分けます。すべての案件に一律の予備費率を掛けるより、対象リスク、発生条件、想定費用、対応策を記録した方が判断に使えます。リスク費用を残見込みへ含めた後、同じ予備費を再度足さないことも重要です。
超過アラートには、金額・比率・対応期限を組み合わせる
アラートは、原価予算との差額だけでなく、差額の比率、残る契約利益、納期までの日数を組み合わせて設計します。100万円の案件の10万円超過と、1億円の案件の10万円超過では意味が違います。小さな差をすべて緊急扱いにすると確認が続かず、重大な変化が埋もれます。
例えば「完成時原価が承認予算を超えた」「配賦前の採算が社内基準を下回った」「残工数が前回から増え、納期までの割当可能時間を超えた」など、原因確認が必要な条件を置きます。数値の閾値は会社の案件規模と利益構造に合わせて決めるもので、一般的な正解として固定しないでください。
広告予算のペーシング管理と日次アラート設計にも、実績だけでなく将来の着地と対応を組み合わせる考え方があります。ただし、案件原価では日数比例より工程と残作業が重要です。似た仕組みを使う場合も、同じ予測式をそのまま流用しないようにします。
アラート後は、案件責任者が原因と選択肢をまとめ、価格変更や外注追加の権限を持つ人が判断します。「予算超過に注意」と表示するだけでは費用は減りません。追加見積の提出日、顧客確認日、担当変更日まで決め、次のレビューで対応結果を確認します。
確定売上と期待する追加売上を分けて判断する
先ほどの架空例で税抜売上が120万円なら、完成時直接原価90万円に対する配賦前の案件採算は30万円です。追加作業10万円を顧客へ提案していても、未承認の段階では確定売上へ足しません。現契約での採算と、追加承認が得られた場合の採算を別に見ます。
案件を止めるか続けるかの判断には、これから避けられる費用と、既に発生して回収できない費用を分ける視点も必要です。中止すれば既発生原価が消えるわけではなく、契約上の義務や解約費用もあります。赤字という数字だけで自動的に中止せず、残りの選択肢を比較してください。
完了後は最終原価を確定し、直前の着地見込みとの差を調べます。外注請求の遅れ、工数提出の遅れ、残作業の漏れなどを次の見込み方法へ戻すと、予測が改善します。見積、予算、途中見込み、最終実績の四つが残って初めて、同種案件をいくらで、どの体制で受けるか判断できるようになります。
よくある質問
完成時原価見込みはどう計算しますか?
実績原価に、未計上の発注残と、それ以外の残作業に必要な費用を足します。実績50万円、未計上発注残15万円、その他の残作業25万円なら90万円です。残作業には社内工数に適用単価を掛けた金額や未発注経費を含めます。同じ作業を発注残と残作業の両方へ入れないよう、範囲を明確にしてください。
発注額と請求額は両方を原価に加えますか?
同じ費用を二重に加えません。一つの発注明細で計上済み額と未計上残を管理し、計上が進んだら発注残を減らします。発注残から実績への移動だけなら、完成時原価見込みは原則変わりません。追加発注、取消、単価変更がある場合は別の変化として記録します。支払済みかどうかは資金管理の情報として分けます。
予算消化率が低ければ問題ないのでしょうか?
問題がないとは限りません。実績が予算の半分でも残作業が多ければ超過する可能性があります。反対に外注費を初期にまとめて計上する案件では、消化率が高くても工程通りの場合があります。費用の発生パターン、完了した成果物、残工数をそろえて確認し、消化率だけで良否を決めないでください。
原価超過を見つけたら予算を修正すればよいですか?
当初予算を実績に合わせて上書きするのではなく、変更予算と理由を版として残します。まず追加範囲、見積漏れ、手戻り、単価変動など原因を分け、顧客との追加見積や工程変更を検討します。顧客未承認の増額は確定売上に混ぜません。責任者と対応期限を決め、次回レビューで残作業と判断結果を更新します。