案件別原価管理とは?工数・人件費・外注費から採算を把握する方法
受注が増え、スタッフの予定も埋まっているのに、月末に利益が残らない。制作会社、受託開発、コンサルティング、BPOなどでは、売上と外注請求だけを追い、社内で使った時間を案件へ結び付けていないことが原因になる場合があります。納品後に長時間の修正や確認作業が判明しても、その時点では価格や体制を変えにくくなっています。
案件別原価管理は、案件IDを軸に社内工数、人件費単価、外注費、案件専用の経費を集め、売上に対してどの程度の費用がかかるかを把握する方法です。最初から複雑な配賦を行うより、案件へ直接ひも付く原価をそろえ、残る共通費を別に管理すると、受注価格や追加作業について判断しやすくなります。

本記事のポイント
- 案件IDで工数・外注費・経費をつなぎ、売上と同じ範囲・期間で原価を比較する。
- 配賦前と配賦後の採算を分け、単価に含めた費用を共通費として二重計上しない。
- 週次は残工数を含む着地を確認し、月次は給与・会計原本と照合して次の見積へ戻す。
案件の採算を見る前に、売上と原価の範囲を決める
最初に決めるのは、どの数字を一つの案件として比較するかです。顧客単位だけで管理すると、同じ顧客の初期構築、月額保守、追加改修が混ざります。契約書や見積の単位に対応する案件IDを作り、追加契約は元案件との関係を残した別IDか、変更番号付きの明細として管理します。担当者や顧客名の表記だけで集計する方法は、担当変更や社名変更で崩れやすくなります。
金額は税込・税抜のどちらで比較するかを統一します。以下の計算例は、すべて税抜の架空例です。契約金額、請求額、会計上の売上計上額、入金額は別の項目です。未完了案件の見込み採算には契約・変更承認済みの金額を使い、月次の会計照合には会計上の売上計上額を使います。請求書を出した日だけで原価と比較すると、実際の作業期間とのずれが出ます。
管理会計で使う採算と、決算書の売上総利益は、費用の分類や計上時期によって一致しない場合があります。本記事では、売上から案件直接原価を引いた金額を「配賦前の案件採算」、さらに社内ルールで配賦した共通費を引いた金額を「配賦後の案件採算」と呼びます。これらをそのまま会計上の粗利と呼ばず、経理担当者と対応関係を整理してください。
| 費用の種類 | 例 | 管理上の扱い |
|---|---|---|
| 社内労務費 | 制作、開発、案件会議、案件固有の修正 | 承認済み工数に適用単価を掛ける |
| 外注費 | 案件専用のデザイン、開発、運営委託 | 発注・検収・請求を同じ明細で追う |
| 直接経費 | 案件専用の出張、素材、クラウド環境 | 案件IDで直接帰属させる |
| 共通費 | 経営管理、全社ツール、家賃など | 費用プールを分け、配賦基準を固定する |
同じ費用を二つの区分へ入れないことが重要です。時間単価に共通費を上乗せする方式を採るなら、その上乗せ対象をさらに別の共通費として配賦してはいけません。社内労務費を工数で配賦した後、給与総額をもう一度案件へ乗せる処理も二重計上になります。費目の名前よりも、元データのどの支出をどこで一度だけ使うかを決めます。
社内工数・外注費・経費を案件IDでつなぐ
社内工数は、作業日、スタッフID、案件ID、作業区分、実績時間、承認状態を最低限の項目とします。作業区分は設計、実行、確認、修正など、原因分析に使える粒度に絞ります。一日を細かく分割しすぎると記録に時間がかかるため、最初は週次の判断に必要な単位で始め、記録漏れや負担を見ながら調整します。
予定時間と実績時間を同じ列へ上書きしてはいけません。予定は受注時の見積や配置計画、実績は作業後の記録です。さらに、これから必要な残工数は別に持ちます。予定10時間の作業に12時間使っていても、残りが1時間なのか8時間なのかで対応は変わります。案件責任者が残工数を見直せることが、単なる時間集計と原価管理の違いです。
スタッフごとの給与情報を全員に公開する必要はありません。現場には工数と作業区分を入力してもらい、人件費単価は権限を限定した台帳から結合します。役割別の標準単価で運用する場合も、適用開始日と終了日を持ち、過去の集計が最新単価で書き換わらないようにします。残業代などを実績で別に加算するなら、標準単価に何を含めているかを確認します。
外注は、発注した時点と請求書を受け取った時点で別々の費用を作るのではなく、一つの発注明細の状態を更新します。発注済み20万円のうち検収・計上済みが12万円なら、未計上の発注残は8万円です。請求書が届く前でも既にサービス提供を受けた部分は、経理ルールに沿った見越計上の対象か確認します。支払済みかどうかは資金管理の情報として別に残します。
営業段階の顧客・案件・見積と、受注後の費用記録は、共通の案件IDを使うとつながります。見積版数と案件ステータスの分離は、AppSheet CRMでの見積管理でも扱っています。CRMへ原価機能をすべて詰め込むことを前提にせず、契約や顧客の正本と、工数・会計の正本の役割を決めることが大切です。
架空の案件で、配賦前と配賦後の採算を計算する
税抜売上100万円の制作案件を考えます。承認済みの社内工数が120時間、共通費を含まない標準人件費単価が1時間3,000円なら、社内労務費は36万円です。外注費20万円、案件専用の経費4万円を加えると、案件直接原価は60万円になります。配賦前の案件採算は100万円から60万円を引いた40万円、売上に対する比率は40%です。
社内で定めた基準により共通費10万円を配賦した場合、配賦後の案件採算は30万円、比率は30%になります。40万円と30万円のどちらかが誤りなのではなく、見ている費用範囲が違います。現場の改善には工数や外注の超過が見える配賦前の数字が使いやすく、事業継続に必要な価格を考える際には共通費も含めた数字が必要です。
| 項目 | 架空例の金額 | 計算・確認 |
|---|---|---|
| 税抜売上 | 1,000,000円 | 承認済み変更を含む対象金額 |
| 社内労務費 | 360,000円 | 120時間 × 3,000円 |
| 外注費・直接経費 | 240,000円 | 200,000円 + 40,000円 |
| 配賦前の案件採算 | 400,000円 | 売上 − 案件直接原価 |
| 共通費配賦額 | 100,000円 | 同じ費用を単価へ重複算入しない |
| 配賦後の案件採算 | 300,000円 | 配賦前採算 − 共通費配賦額 |
この案件で予定外の修正が40時間発生すると、同じ単価では12万円の社内労務費が増えます。売上や他の費用が変わらなければ、配賦前の採算は28万円になります。単に「担当者の作業が遅い」と結論づけず、見積に含めた作業量、顧客側の仕様変更、社内の確認不足、担当スキルとの不一致を分けて調べます。
単価を掛けた時間は会計上の給与支出と完全には一致しないことがあります。標準単価と実際の給与の差、有休・研修・待機などの扱い、記録漏れを月次で照合し、その差額がどこへ残るかを説明できるようにします。差額を理由なく売上の大きい案件へ寄せると、案件の改善可能な問題が見えなくなります。
週次では赤字の予兆、月次では会計との整合を見る
週次の案件会議では、売上見込み、実績原価、未計上の発注残、未発注の残作業見込み、完成時原価見込みを並べます。予算に対する消化率だけでは、作業がどこまで進んだかが分かりません。実績原価が予算の半分でも、作業が2割しか終わっていなければ確認が必要です。一方、大きな外注費を初期に計上する契約では、費用の先行だけで異常とは判断できません。
予算超過を見つけた後の動きも決めます。案件責任者が原因と残作業を整理し、追加見積、作業範囲の変更、配置の見直し、外注の利用を検討します。顧客の承認前の追加金額は、確定売上に混ぜません。確定している採算と、追加承認が得られた場合の採算を別々に表示すると、期待だけで赤字を隠すことを防げます。
月次には工数の未提出、案件IDのない経費、外注の未検収、取消・返金、単価の適用漏れを確認します。そのうえで案件別集計の合計を、対象費目の会計残高や給与原本と照合します。すぐ帰属先が決まらない費用は「未配賦」として金額と理由を残します。未配賦をゼロ扱いすると、見た目の利益率だけが高くなるためです。
原本と配賦結果を分け、差額を説明する考え方は、広告費をCRMへ配賦するルールにも共通します。ただし、顧客獲得の広告費と納品にかかる案件原価は用途が異なります。獲得費用も含む顧客採算を計算するときは、提供原価との境界を明示して足し合わせます。
一つの部門から始め、価格と体制の改善へつなげる
導入時は、進行中の案件を少数選び、案件ID、工数、単価、費用明細の対応を確認します。過去の全案件を完璧に復元することを開始条件にすると、いつまでも運用が始まりません。比較できる精度がある期間を決め、推定した値と実測値を区別しながら、一度の月次締めを通して不足項目を洗い出します。
現場が入力する項目と管理者が補う項目を分けます。スタッフが毎日入力するのは案件と作業時間が中心で、費用科目や配賦ルールの判断まで求める必要はありません。入力後に自分の予定と実績、追加作業の履歴が見返せると、記録が管理部門への報告だけで終わらず、過負荷の相談や見積改善にも使えるようになります。
改善の単位は個人の稼働率だけではありません。同じ種類の案件を比べ、見積工数の不足、修正回数、確認待ち、外注受入れの手戻りを確認します。値上げが必要な場合は実績と作業範囲を根拠にし、作業量を減らせる場合は標準化や承認工程の改善を行います。SESにおける案件・要員・稼働の管理のように、契約更新と稼働状況を同じ文脈で見ることも、価格交渉の準備に役立ちます。
担当者の評価に使う場合は、案件の難易度、引き継いだ問題、育成や支援への貢献も考慮します。記録時間を少なく見せる人が高評価になる仕組みでは、原価の実態が見えなくなります。原価管理の目的を、現場を急がせることではなく、適正な条件で受注し、継続可能な体制を作ることに置くと、情報の精度を保ちやすくなります。
最初の成果は、利益率の数字が一つ出ることではありません。赤字になりそうな案件が納品前に見つかり、誰が、いつまでに、価格・範囲・体制のどれを変えるか決められることです。月次の合計が原本とつながり、その判断が次の見積へ戻る状態を、運用の到達点にしてください。
開始前に決めておく五つの運用項目
案件IDを誰が発行するか、工数をいつまでに入力するか、単価を誰が更新するか、費用明細を誰が案件へひも付けるか、締め後の修正を誰が承認するかを決めます。システム上の項目がそろっていても、これらの役割が曖昧なら未入力や保留が積み上がります。兼任でも構わないので、責任の所在と代行者を明確にしてください。
初月には、合計が一致した案件だけでなく、差が出た案件を数件確認します。未提出工数、月をまたぐ外注、費用の取消など、差の種類を記録して次月の点検項目にします。集計誤差を毎回手で直す運用より、差が発生した元データと処理を直す方が、継続的な精度につながります。
よくある質問
案件別原価管理では何を原価に含めますか?
まず案件に直接ひも付く社内労務費、外注費、直接経費を集計します。家賃や管理部門などの共通費は別にまとめ、定めた基準で配賦します。時間単価に共通費を含める方式では、同じ費用を別配賦しないよう確認してください。管理会計の原価範囲と決算書の分類は必ずしも一致しないため、経理担当者と対象科目・期間を対応付けます。
工数を記録していない会社は何から始めればよいですか?
少数の進行案件に案件IDを付け、作業日・担当者・作業区分・実績時間を記録するところから始めます。過去を無理に復元するより、記録開始日を決め、推定値と実測値を区別してください。工数だけでなく外注費と直接経費もそろえ、一度の月次締めで入力漏れと原本との差を確認します。給与単価は現場の入力欄と分け、閲覧権限を限定します。
配賦前と配賦後の採算はどちらを使うべきですか?
両方を使い分けます。配賦前は案件の作業量や外注費など、現場の改善につながる直接原価を確認しやすい数字です。配賦後は事業全体で負担する共通費を含み、継続できる価格や事業構成を検討する材料になります。費用範囲が違う数字を同じ利益率として比較せず、配賦基準を変更した場合は実際の改善と分けて示します。
原価管理は納品後に行えば十分ですか?
納品後の確認は次回見積に役立ちますが、その案件の条件変更には遅い場合があります。進行中は実績に未計上発注残とその他の残作業見込みを足して完成時原価を予測してください。超過の理由を整理し、追加見積・範囲調整・配置変更の責任者と期限を決めます。顧客未承認の追加売上は確定売上と分け、承認への期待だけで赤字を隠さない運用が必要です。