ひとり社長のシステム・AI活用構成|AIが通知し、社長は応答するだけにする組み方
結論として、ひとり社長が自分で持つ仕事は「判断する」「人と会う」「新規事業を検討する」の3つに絞ります。それ以外は、AI が SaaS(CRM・メール・カレンダー・会計など)の情報を読んで下書き付きで通知し、社長は「OK」「直して」「やめる」「あとで」「専門家に回す」の5種類で応答するだけにします。メールの送信・支払い・公開・契約は社長の OK のあとにだけ実行し、実行した内容は SaaS に記録します。
本記事のポイント
- ひとり社長が持つのは意思決定・人との関係・新規事業の3つで、作業と管理・確認はAIが通知し、社長はOK・直して・やめる・あとで・専門家に回すで応答するだけにする。
- 構成は社長・AI・SaaSの3層で、情報の正本と実行の場はSaaSに置き、AIは複数のSaaSを読んで選び、まとめ、下書きし、応答の結果をSaaSに記録する。
- 送信・支払い・公開・契約は社長のOKのあとにだけ実行し、導入はルールの文書づくり、メールとカレンダーの接続、朝のまとめの登録の3ステップから始める。
はじめに:扱う範囲と結論
この記事は、従業員がいない、またはごく少人数で会社を回している経営者(以下、ひとり社長)に向けて、今ある AI と業務用のクラウドサービス(以下、SaaS)を組み合わせて、どこまで仕事を自動化できるかを、組み方の手順まで含めて説明します。
扱う範囲は、営業・連絡・資料づくり・発信・お金・契約・調べものといった、社長が日々こなしている業務です。システム開発の話はしません。設定画面でつなぐ、ルールを文章で書く、届いた通知に応答する、という範囲で組める構成を前提にしています。
結論は次のとおりです。
- 社長が担当するのは「判断する」「人と会う」「新規事業を検討する」の3つです。
- それ以外の業務は、AI とシステムが社長に通知し、社長はその通知に応答するだけにします。
- 応答は「OK」「直して」「やめる」「あとで」「専門家に回す」の5種類に決めておきます。
- メールの送信、支払い、公開、契約の締結は、社長が「OK」を押したときに初めて実行されるようにします。AI が勝手に実行する状態にはしません。
- 情報の正本は SaaS(CRM、会計、カレンダーなど)に置きます。AI はそれらをまたいで読み、選び、まとめ、下書きし、入力する役割です。
この構成にすると、社長は「AI に何を頼むか考えて指示を書く」という手間から離れられます。AI から届いた通知を読み、5種類のどれかで応答すれば、その先の作業は AI と SaaS が進めます。
記事の中で挙げるサービス名は、代表的な例です。いずれも、AI とつながる経路(公式の API、公式の連携機能、公式の MCP サーバーなど)をサービス提供元が用意しているものです。2026年11月時点の公開情報に基づきます。機能や対応範囲は変わることがあるため、導入するときは各サービスの公式ページで最新の内容を確かめてください。
なお、MCP(Model Context Protocol)は、AI が外部のサービスに接続してデータを読んだり操作したりするための共通の接続方式です。サービス側が MCP サーバーを用意していると、Claude や ChatGPT などの AI から設定画面で接続できる場合が多くなります。
第1章 ひとり社長の業務を分類する
自動化の設計は、自分の業務を分けるところから始めます。分けずに「AI で効率化しよう」と考えると、目についた作業から手を付けることになり、どこまで任せてどこを自分で持つかが決まりません。この章では、業務を「部門」と「区分」の2つの軸で分けます。
1-1 ひとり社長が兼ねている8部門
会社の業務は、規模が小さくても次の8部門に分けられます。ひとり社長は、このすべてを1人で兼ねています。
| 部門 | 主な業務 |
|---|---|
| マーケティング | 発信(記事・SNS・メールマガジン)、サイトの更新、問い合わせの数や流入の数字の確認 |
| 営業 | 問い合わせへの返信、商談の準備、商談、見積・提案書の作成、追客 |
| サービス提供・制作 | 納品物の作成、作業の進行管理、修正対応、納期の管理 |
| カスタマーサクセス・サポート | 既存顧客の利用状況の確認、更新の案内、問い合わせ対応 |
| 経理・財務 | 請求書の発行、入金確認と催促、経費の処理、資金繰りの確認、税理士とのやり取り |
| 総務・法務 | 契約書の確認と締結、契約の更新期限の管理、各種届出・支払いの期限管理、弁護士とのやり取り |
| 人事・外注管理 | 外注先の選定と依頼、納品の確認、支払い、社労士とのやり取り |
| 経営企画 | 月の振り返り、業界の動きの把握、次の打ち手と新規事業の検討 |
この表を見て、自分が今どの部門の業務にどれだけ時間を使っているかを書き出してみてください。多くの場合、営業・経理・総務の細かい作業に時間が取られ、経営企画に回す時間がほとんど残っていないことが分かります。
1-2 業務の6区分
部門とは別に、業務を「性質」で6つに分けます。同じ営業部門の業務でも、「どの顧客を優先するか決める」と「見積書を作る」では性質がまったく違うためです。
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| ①意思決定 | 選ぶ・決める・断る | 受注するか、値引きするか、外注先をどこにするか、支払うか |
| ②作業 | 手を動かして形にする | 見積書・請求書・議事録・返信文・記事の作成、データの入力 |
| ③目の前の改善 | 今の業務のやり方を少し良くする | 問い合わせフォームの項目の見直し、よく使う返信文の整備、請求の手順の見直し |
| ④新規事業・将来のビジネスづくり | 今の事業の外を調べ、次の柱を考える | 業界の動き・新しい技術・規制の変化の調査、新しい商品やサービスの検討 |
| ⑤人との関係 | 顧客・取引先・専門家・紹介者との関係をつくり、保つ | 商談、会食、お礼、近況の連絡、紹介のお願い |
| ⑥管理・確認 | 抜け漏れがないか見張る | 入金の確認、期限の確認、未返信の確認、数字の確認 |
1-3 区分ごとの時間の使われ方とAIに渡せる範囲
6区分それぞれについて、ひとり社長の時間がどう使われているか、AI にどこまで渡せるかを整理します。
①意思決定
意思決定そのものにかかる時間は短いものです。時間がかかるのは、決めるための材料を集める部分です。過去のメールを探す、CRM で取引の経緯を確かめる、会計ソフトで残高を見る、といった作業が、判断の前に毎回発生しています。
AI に渡せるのは、材料集めと選択肢の整理です。「受注するかどうか」を決める場面なら、AI が過去のやり取り、相手の会社情報、自社の今の稼働状況、似た案件の利益をまとめ、「おすすめはこれ、理由はこれ」という形で通知します。決めるのは社長です。
②作業
ひとり社長の時間をもっとも多く取っている区分です。返信文、見積書、請求書、議事録、提案書、記事の下書き、CRM への入力などが含まれます。
AI に渡せる範囲がもっとも広い区分です。下書き・作成・入力はほぼすべて AI に渡せます。ただし、作ったものを外に出す操作(送信・公開・提出)は、社長の OK を経てから実行します。
③目の前の改善
「この手順は毎回面倒だ」と感じても、日々の作業に追われて手を付けられないまま残りやすい区分です。
AI は、日々の作業の記録から「同じ修正を何度もしている」「同じ質問に何度も答えている」といった繰り返しを見つけ、改善案として通知できます。社長は案を見て、採用するかどうかを決めます。案を出す部分は AI、採用するかどうかは社長です。
④新規事業・将来のビジネスづくり
もっとも大事なのに、もっとも後回しになる区分です。調べる時間が取れない、調べても情報が多すぎて読み切れない、という状態が続きます。
AI に渡せるのは、情報を集めて自社に関係あるものを選び、要点をまとめる部分です。何を調べるかのテーマを決めること、まとめを読んで「深掘りする」「試す」「捨てる」を選ぶことは社長が持ちます。この流れは第5章で詳しく説明します。
⑤人との関係
人と会う、話す、関係を保つことは、社長が自分でやる仕事です。一方で、その前後の作業には時間がかかっています。前回いつ会ったか、何を話したかを思い出す、お礼のメールを書く、しばらく連絡していない相手に気づく、といった作業です。
AI に渡せるのは、接点の整理、返信やお礼の下書き、連絡漏れのアラートです。流れは次の3段階です。
- 過去の人物との接点を整理する。AI が CRM・メール・カレンダーを読み、相手ごとに「いつ会ったか」「何を話したか」「どの商談・案件に関わる人か」「誰の紹介か」をまとめ、CRM の連絡先に記録します。
- 返信の下書きを作る。相手からメールが届いたら、これまでの接点を踏まえて返信を下書きします。送るのは社長です。社長が OK を返すと送信され、送ったことが CRM に記録されます。
- アラートを出す。次の3つを通知します。
- 未返信:相手から届いたメールに、決めた日数以上返信していない
- 約束の期限:「来週資料を送ります」のように、メールや議事録の中で約束したことの期限が近い
- しばらく連絡していない大事な相手:顧客・紹介者・協力者のうち、社長が「大事な相手」と印を付けた人と、決めた期間以上やり取りがない
通知の例は次のとおりです。
【人との関係】しばらく連絡していない相手(2名)
1. (会社名)(氏名)様:最後の接点は(日付)の会食。前回、(話題)について情報交換を約束
→ 近況伺いのメールを下書きしました
2. (会社名)(氏名)様:(日付)に案件を紹介いただいた方。案件のその後を未報告
→ 受注の報告とお礼のメールを下書きしました
応答:番号ごとに OK で送信/直して/やめる/あとで
会う・話す・送る判断は社長が持ち、その前後の準備と見張りを AI に渡す形です。
⑥管理・確認
入金されたか、期限が近いものはないか、返信していないメールはないか、といった確認です。一つ一つは短時間でも、毎日・毎週発生し、抜けると損失が出ます。
AI に渡しやすい区分です。AI が定期的に SaaS の記録を確認し、問題があるものだけを通知します。社長は「問題なし」の確認作業をしなくて済み、通知が来たものだけに対応します。
1-4 社長が担当する業務とAIに渡す業務
ここまでの整理をまとめると、次のようになります。
| 担当 | 区分 | 社長がすること | AI がすること |
|---|---|---|---|
| 社長に残す | ①意思決定 | 選ぶ・決める・最後の OK | 材料集め、選択肢と推奨案の整理 |
| 社長に残す | ⑤人との関係 | 会う・話す・送る | 接点の整理、下書き、連絡漏れのアラート |
| 社長に残す | ④新規事業・将来のビジネス | テーマを決める、深掘り・試す・捨てるを選ぶ | 情報収集、自社との関係の判定、要約 |
| AI に渡す | ②作業 | 仕上がりを見て OK か直してを返す | 下書き、作成、入力 |
| AI に渡す | ⑥管理・確認 | 通知が来たものに応答する | 定期確認、異常の検知、通知 |
| AI が案を出す | ③目の前の改善 | 採用するかを決める | 繰り返しの発見、改善案の作成 |
AI にはもう一つ、情報の仕分けを渡します。届いたメール、問い合わせ、ニュースのうち、社長が見る必要があるものとないものを分け、見る必要があるものだけを通知にします。
どの区分でも、最後の OK は社長です。AI に渡すのは「OK の手前まで」と考えてください。
1-5 部門×区分の対応表
8部門と6区分を掛け合わせると、自分の業務のどこを AI に渡せるかが一覧で分かります。表の中は、その部門でその区分に当たる代表的な業務です。
| 部門 | ①意思決定 | ②作業 | ③目の前の改善 | ④新規事業・将来 | ⑤人との関係 | ⑥管理・確認 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| マーケティング | 発信するテーマを決める | 記事・SNS の下書き | 反応の良い型を残す | 新しい発信手段の検討 | 協業先・紹介者との連絡 | 問い合わせ数・流入の変化 |
| 営業 | 受注・値引きの判断 | 返信・見積・議事録 | 返信文の型の整備 | 新しい顧客層の検討 | 商談・お礼 | 止まった商談・未返信 |
| サービス提供・制作 | 納期・範囲の判断 | 納品物の下書き | 作業手順の見直し | 新しい提供形態の検討 | 顧客との打ち合わせ | 締め切り・修正依頼 |
| カスタマーサクセス・サポート | 更新条件の判断 | 問い合わせ回答の下書き | よくある質問の整備 | 追加サービスの検討 | 定期の連絡 | 利用の減少・更新期限 |
| 経理・財務 | 支払い・投資の判断 | 請求書・経費の入力 | 請求手順の見直し | 資金の使い道の検討 | 税理士との相談 | 入金・資金の見込み |
| 総務・法務 | 契約するかの判断 | 契約書の確認メモ | 契約書の雛形の整備 | 新事業に必要な許認可の確認 | 弁護士との相談 | 更新期限・届出期限 |
| 人事・外注管理 | 依頼先の決定 | 依頼文・候補の整理 | 依頼手順の見直し | 体制の検討 | 外注先との関係、社労士との相談 | 納品・支払いの確認 |
| 経営企画 | 次の一手の決定 | 月次のまとめ | 振り返りの型の整備 | トレンド調査・新規事業 | 経営者仲間・支援者との接点 | 月次の数字 |
この表の②と⑥の列は AI に渡す範囲、①・④・⑤の列は社長が持つ範囲、③の列は AI が案を出して社長が選ぶ範囲です。第4章では、部門ごとにこの表の中身を具体的な通知の流れに落とし込みます。
第2章 基本の仕組み:AIが通知し、社長が応答する
この章で説明する仕組みの全体は、次の図のとおりです。SaaS(CRM・メール・カレンダー・会計など)にある情報を AI が読み、必要なものを選び、まとめ、下書きを作って社長に通知します。社長は「OK」「直して」「やめる」「あとで」「専門家に回す」のどれかで応答します。OK が出たものだけを AI が実行し、実行した内容を SaaS に記録します。
2-1 指示型の運用で残る手間
多くの人が最初に使う AI の形は、「頼めば答える」形です。チャット画面を開き、「このメールへの返信を書いて」「この資料を要約して」と指示を書くと、AI が答えを返します。これを指示型の運用と呼びます。
指示型でも作業そのものは速くなります。ただし、次の手間が残ります。
- 頼むこと自体が社長の仕事になる。何を頼むかを考え、必要な情報(相手の名前、これまでの経緯、自社の条件)を毎回 AI に渡す必要があります。
- 頼むのを忘れると、何も起きない。入金の確認や返信漏れのチェックは、社長が「確認して」と言わない限り AI は動きません。抜け漏れを防ぐ役割を果たせません。
- AI の答えを別の場所に移す作業が残る。AI が書いた返信文をメールソフトに貼り付け、議事録を CRM に貼り付ける、という転記が発生します。
- 同じ説明を何度もする。会社の情報や文体の好みを毎回伝え直すことになります。
つまり指示型では、社長が「AI の上司」として仕事を割り振り続ける必要があります。ひとり社長にとって、この割り振りの手間は小さくありません。
2-2 通知型の運用の仕組み
通知型の運用では、向きが逆になります。AI のほうから社長に通知が届き、社長はそれに応答します。
仕組みは次の4段階です。
- きっかけが起きる。毎朝の決まった時刻になる、メールが届く、期限が近づく、数字が急に変わる、など。
- AI が処理する。関係する SaaS(メール、CRM、カレンダー、会計など)から情報を読み、必要なものを選び、まとめ、下書きまで作ります。
- AI が社長に通知する。「何が起きたか」「なぜ大事か」「おすすめの対応」と、下書きがあれば下書きを添えて届けます。
- 社長が応答する。5種類(OK/直して/やめる/あとで/専門家に回す)のどれかで返します。応答に応じて AI が続きを処理し、結果を SaaS に記録します。
これを実現するには、AI を「決まった時刻やきっかけで自動的に動く」状態にしておく必要があります。代表的な方法は次のとおりです。
- AI サービスの定期実行機能を使う。ChatGPT の定期タスク(Scheduled tasks)、Claude の定期実行タスク(Cowork の Scheduled tasks)、Gemini のスケジュール設定された操作などがあり、毎日・毎週などの頻度で、決めた指示を自動で実行できます。接続済みの Gmail や Google カレンダーなどの情報を使って結果をまとめられます。
- 自動化サービスを使う。Zapier のような自動化サービスを使うと、「メールが届いたら」「フォームに回答が入ったら」といったきっかけで処理を動かせます。Zapier は MCP サーバーも提供しており、Claude や ChatGPT から Zapier 経由で多くのアプリを操作できます。
どちらの方法でも、社長がやることは「どのきっかけで、何を調べ、どう通知するか」を文章で決めて登録することです。
このほか、AI が自分で作業を進め、影響の大きい操作の前で止まって承認を求める、という作りをそのまま製品にしたエージェントも出ています。OpenAI の dots、xAI の Grok Bot、Meta の Muse、Anthropic の Claude Duet は、メールの送信や購入、支払いなどの前に利用者へ確認を求めます。このうち Claude Duet は、毎朝のまとめを届け、利用者が離れている間も作業を進めるという点で、この章の通知型の運用に近い作りです。Anthropic の Claude Code も、操作の前に確認を求める設定で使えます。各製品の概要は 3-2 で説明します。
2-3 通知の4種類
通知は、きっかけの種類で4つに分けると設計しやすくなります。
| 種類 | きっかけ | 例 |
|---|---|---|
| 定期 | 決まった時刻・曜日 | 毎朝のまとめ、毎週の商談状況、毎月の振り返り |
| きっかけ | 何かが起きたとき(メールの受信、フォームの回答、予定の前後) | 問い合わせが届いた、商談の30分前になった、商談が終わった |
| 期限 | 期日が近づいたとき | 請求書の発行日、入金期日、契約の更新期限、届出の期限 |
| 異常 | 数字の急変、動きが止まったとき | 問い合わせが急に減った、商談が2週間動いていない、入金が期日を過ぎた |
定期の通知は、毎朝のまとめを中心にします。前日から届いたメールのうち対応が必要なもの、今日の予定と準備、期限が近いもの、返事待ちの案件を1通にまとめます。
きっかけの通知は、その場で動いたほうがよいものに使います。問い合わせが届いたら、返信の下書き付きで通知します。商談の前には相手のメモを、商談の後には議事録とお礼メールの下書きを届けます。
期限の通知は、期日から逆算して届くようにします。請求書なら発行日の数日前、契約の更新なら解約の申し入れ期限の前、というように、対応に必要な時間を見込んで通知の日を決めます。
異常の通知は、「いつもと違う」ことを知らせます。何も起きていないときは通知しません。社長が「問題なし」を確かめるための通知は送らないようにします。
2-4 応答の5種類と応答後の処理
社長の応答は、次の5種類に決めておきます。種類を決めておくと、どの通知にも同じ動きで応えられ、迷う時間がなくなります。
| 応答 | 意味 | 応答後に AI がすること |
|---|---|---|
| OK | そのまま進める | 下書きの送信、請求書の発行、予定の登録など、提案どおりに実行する。送信・公開・支払いは、この OK で初めて実行する。実行したことを SaaS に記録する |
| 直して | 一言の修正を付けて戻す | 修正の指示に沿って直し、再度通知する。同じ種類の修正が繰り返される場合は、ルールとして覚える(3-7で説明) |
| やめる | 却下する | 実行しない。却下したことと理由を記録し、同じ提案を繰り返さない |
| あとで | 保留する | 社長が決めた日(または決めた条件)に、もう一度通知する |
| 専門家に回す | 税理士・弁護士・社労士などに相談する | 相談内容と資料をまとめ、依頼文を下書きして通知する。社長が依頼文に OK を出したら送る。専門家の返答が届いたら、その内容をもとに改めて通知する |
それぞれの応答について、もう少し詳しく説明します。
OK は、提案どおりに進めてよいという意味です。メールの送信、請求書の発行、記事の公開、支払いの登録などは、この OK があって初めて実行します。OK が出る前の段階では、AI は下書きを作るところまでしか進めません。
直しては、一言で修正を伝える応答です。「もっと短く」「金額は税込で」「来週ではなく今週中と書いて」のように、直す点だけを返します。AI は直した版をもう一度通知し、社長は改めて OK か直してを返します。
やめるは、提案を却下する応答です。理由を一言付けておくと、AI はその理由も記録し、同じ種類の提案を控えます。たとえば「この業界の案件は受けない」と理由を付けて却下すると、次から同じ業界の問い合わせには「方針により見送り候補」と付けて通知するようになります。
あとでは、今は決めないという応答です。「来週月曜」「見積が届いてから」のように、いつ再通知するかを添えます。添えなかった場合に何日後に再通知するかは、あらかじめルールで決めておきます。
専門家に回すは、社長だけでは判断しないほうがよい内容を、税理士・弁護士・社労士などに相談する応答です。AI は、相談したい点、関係する資料(契約書、請求書、メールのやり取りなど)、聞きたいことを整理した依頼文を下書きします。依頼文の送信も社長の OK が必要です。専門家から返答が届いたら、AI はその内容を要約し、「専門家の意見はこう、それを踏まえたおすすめはこう」という形で再び通知します。
2-5 通知文の型と文面例
通知文は、毎回同じ型にそろえます。型がそろっていると、読む場所が決まり、数秒で判断できます。
通知文の型
【種類】件名(何についての通知か)
結論:何をするか(おすすめ)
理由:なぜそれをすすめるか(1〜3行)
材料:判断に使った情報(どこから取ったか)
下書き:送る文面・作った書類(ある場合)
期限:いつまでに応答が必要か
応答:OK/直して/やめる/あとで/専門家に回す
以下は、場面ごとの文面例です。( )の部分は、実際の通知では具体的な名前や数字が入ります。
例1:問い合わせへの返信(きっかけ)
【問い合わせ】(会社名)様から、(サービス名)についての問い合わせ
結論:今日中に返信し、来週の候補日を3つ出すのがおすすめです。
理由:問い合わせの内容が、主力サービスの対象業種・規模に合っています。
相手のサイトを確認したところ、(事業内容)の会社です。
材料:問い合わせフォームの回答、相手の会社サイト、CRM(過去の接点なし)
下書き:返信メール(候補日はカレンダーの空きから3つ選んでいます)
期限:本日18時までに返信できると、返信の目安としている当日中に収まります
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで/専門家に回す
例2:入金の遅れ(異常)
【入金】(会社名)様の(月)分請求、入金期日を過ぎています
結論:確認のメールを送るのがおすすめです。
理由:入金期日から3日経過しています。過去の取引では毎回期日内に入金されているため、
先方の処理漏れの可能性があります。
材料:会計ソフトの入金明細、請求書の発行記録、過去の入金履歴
下書き:入金確認のメール(丁寧な確認の文面です)
期限:今週中
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで/専門家に回す
例3:契約の更新期限(期限)
【契約】(サービス名)の契約、自動更新の解約申し入れ期限が近づいています
結論:継続するかどうかを今週中に決めてください。
理由:解約申し入れの期限は(日付)です。過ぎると同じ条件で1年更新されます。
直近3か月の利用記録では、月に数回の利用にとどまっています。
材料:電子契約サービスに保管された契約書、利用記録、会計ソフトの支払い履歴
下書き:解約する場合の申し入れ文
期限:(日付)
応答:OK(継続)/直して/やめる(解約手続きへ)/あとで/専門家に回す
例4:商談後(きっかけ)
【商談後】(会社名)様との打ち合わせが終了しました
結論:議事録を CRM に登録し、お礼メールを送るのがおすすめです。
理由:先方から見積の依頼がありました(録音の文字起こしより)。
材料:商談の文字起こし、CRM の取引情報、カレンダーの予定
下書き:議事録(決まったこと・宿題・次回日程)、お礼メール、見積書の下書き
期限:お礼メールは本日中
応答:OK で登録・送信/直して/やめる/あとで/専門家に回す
例5:毎朝のまとめ(定期)
【朝のまとめ】(日付)
今日決めること(2件)
1. (会社名)様の見積、値引きの可否 → おすすめ:値引きせず納期で調整
2. 外注先の選定 → おすすめ:候補 B(理由:過去の納品実績あり)
今日送るもの(3件):返信2件、請求書1件(すべて下書き済み)
今日の予定:14時 (会社名)様と商談 → 相手メモは13時半に届きます
期限が近いもの:(届出名)の提出期限まであと5日
返事待ち:(会社名)様(4日返信なし)
応答:項目ごとに OK/直して/やめる/あとで/専門家に回す
例6:専門家への相談(専門家に回すを選んだあと)
【専門家に回す】税理士への相談文を作成しました
相談内容:(内容)を経費として処理してよいかの確認
添付:領収書の画像、関係するメールのやり取り
下書き:税理士宛ての依頼文
応答:OK で送信/直して/やめる
2-6 通知の出し方のルール
通知は便利な反面、増えすぎると読まれなくなります。次のルールを決めておきます。
- 基本は朝1回にまとめる。急ぎでないものは、翌朝のまとめに入れます。社長が1日に何度も通知に呼ばれる状態にしません。
- 急ぎだけその場で届ける。その場で届けるのは、問い合わせ(当日中の返信が望ましいもの)、当日の予定に関わるもの、入金や支払いの期限当日のもの、など限られたものにします。何を急ぎとするかはルールとして書いておきます。
- 結論を先に書く。「何を」「なぜ」「おすすめは何か」を最初の数行に書きます。経緯の説明は後ろに回します。
- 1タップか一言で応答できるようにする。応答の5種類を選ぶだけで済む形にします。長い文章を書かないと応答できない通知は、設計を見直します。
- 放置されたら、期限の前に再通知する。期限のある通知に応答がない場合は、期限の前にもう一度届けます。
- 通知の届く場所は1つに絞る。メール、チャット、AI のアプリなど、届く場所が複数あると見落とします。Slack や Microsoft Teams、LINE WORKS などのチャットのどれか1つ、またはメールの専用フォルダなど、1か所に決めます。
Google Workspace を使っている場合は、Google Chat を届く場所にする方法もあります。AI の提案をチャット上で承認してから実行する組み方は、Google ChatとAIエージェントの連携で確認できます。
2-7 未応答のときの処理
通知に応答がないまま時間が経つと、期限を過ぎたり、同じ通知が溜まったりします。未応答の扱いを決めておきます。
| 状況 | 処理 |
|---|---|
| 期限のある通知に応答がない | 期限の前日(または決めたタイミング)に再通知する。件名に「再通知」と付ける |
| 期限当日になっても応答がない | 当日の朝のまとめの先頭に載せる。急ぎの場合はその場でも届ける |
| 期限を過ぎた | 実行はしない。「期限を過ぎた」ことを記録し、次の対応案(遅れた場合の連絡文など)を付けて通知する |
| 期限のない通知に応答がない | 一定期間(たとえば1週間)経ったら、週のまとめに「未応答」として一覧で載せる |
| 「あとで」で保留したもの | 社長が指定した日に再通知する。日が指定されていない場合は、ルールで決めた日数後に再通知する |
| 同じ種類の通知が溜まっている | 個別に送らず、まとめて1件にする(例:「返信待ちのメールが5件あります」) |
大事なのは、応答がないことを理由に AI が送信・支払い・公開・契約を進めないことです。期限が過ぎても、AI がするのは記録と再通知までです。
第3章 システム構成:社長・AI・SaaSの3層
3-1 各層の役割と情報の流れ
構成は、社長・AI・SaaS の3層で考えます。
| 層 | 役割 | 具体的にすること |
|---|---|---|
| 社長 | 判断・応答 | 通知を読み、5種類のどれかで応答する。人と会う。新規事業を考える |
| AI | SaaS をまたいで読む・選ぶ・まとめる・下書き・入力 | 複数の SaaS から情報を集め、必要なものを選び、要約し、下書きを作り、社長の OK のあとに SaaS へ入力・実行する |
| SaaS | 情報の正本・実行の場 | 顧客情報・取引・予定・ファイル・会計の記録を持つ。メールの送信、請求書の発行、契約の締結など、実際の操作が行われる場所。最後の OK を押す場所 |
情報は次の順で流れます。
- 入る:メール、問い合わせフォーム、カレンダーの予定、会計ソフトの入出金、ニュースのアラートなどが SaaS に入ります。
- AI が選んでまとめる:AI が SaaS を読み、社長が見る必要のあるものを選び、関連する情報(CRM の取引履歴、過去のメールなど)と合わせて要約し、下書きを作ります。
- 社長が応答する:通知を読み、OK/直して/やめる/あとで/専門家に回すのどれかを返します。
- AI が実行する:OK が出たものを実行します。メールを送る、請求書を発行する、予定を登録する、などです。
- SaaS に記録する:実行した内容、社長の応答、却下の理由などを SaaS(主に CRM)に記録します。
5の「SaaS に記録する」が抜けると、AI の中にだけ情報が残り、あとで探せなくなります。記録先を決めておくことが、この構成の要です。
3-2 AIの3つの形と任せる業務
AI には、使い方の違いで3つの形があります。
| 形 | 動き方 | 向いている業務 | 代表的なサービス・機能 |
|---|---|---|---|
| 対話型 | 社長が話しかけると答える | その場の相談、文章の手直し、資料の要約、考えの整理 | ChatGPT、Claude、Gemini のチャット画面 |
| 定期実行型のワークフロー | 決まった時刻やきっかけで、決まった手順を自動で実行する | 毎朝のまとめ、期限の確認、入金の確認、問い合わせの受付と下書き | ChatGPT の定期タスク、Claude の定期実行タスク、Gemini のスケジュール設定された操作、Zapier |
| エージェント型 | 目的を渡すと、必要な手順を AI が考え、複数の SaaS をまたいで進める | 商談前の相手の下調べ、外注先の候補探し、トレンド調査、月次の振り返りの作成 | Claude の Cowork や Claude Code、Anthropic の Claude Duet、OpenAI の dots、xAI の Grok Bot、Meta の Muse など、作業を丸ごと任せられる機能・製品 |
使い分けの考え方は次のとおりです。
- 毎回同じ手順で済む業務は、定期実行型にします。朝のまとめ、入金の確認、期限の確認などです。
- 毎回中身が違い、調べる範囲が広い業務は、エージェント型にします。相手の下調べ、候補探し、調査などです。
- 社長自身が考えを整理したいときは、対話型を使います。新規事業の検討や、判断に迷ったときの壁打ちなどです。
通知型の運用では、定期実行型とエージェント型が中心になります。対話型は、通知を受けて「もう少し詳しく知りたい」ときに使う補助の位置づけです。
エージェント型の製品の例
エージェント型は、各社から製品として提供されるようになっています。代表的なものを、提供元の公式ページで確認できる範囲で挙げます。
- dots(OpenAI):2026年9月29日に発表された、ChatGPT に組み込まれた常時稼働のエージェントです。利用者のパソコンとは切り離された専用のクラウド上のコンピューターで作業し、ChatGPT のほか Slack や Microsoft Teams からも話しかけられます。どの操作を自分で進め、どの操作で承認を求めるかの決まりがあらかじめ組み込まれており、利用者は「カスタムルール」で特定の操作を許可する、承認を必須にする、禁止する、を設定できます。パスワードの変更など一部の操作は、必ず利用者自身が行う扱いです。提供は ChatGPT の一部の有料プランから順次始まっています。日本での提供状況は公式ページで確認してください。
- Grok Bot(xAI):名前と担当業務を決めて使い続けるエージェントです。ブラウザーなどを備えたクラウド上のコンピューターで動き、接続したアプリやウェブサイトをまたいで作業を進め、承認が必要な場面になると利用者に戻ってきます。ウェブサイトへのサインインには保管庫に保存したログイン情報を使い、パスワードの値はエージェントからは見えない作りです。承認が必要な操作では、操作の内容と入力値を示した確認の画面が表示され、利用者は今回だけ許可する、常に許可する、拒否する、のいずれかを選びます。日本での提供状況は公式ページで確認してください。
- Muse(Meta):2026年9月8日に発表され、米国で提供が始まった個人向けのエージェントです。Muse のアプリや WhatsApp からメッセージで頼むと、メールの送信や旅行の予約などを代行します。Muse は利用者ごとの専用の仮想マシンで動き、接続したサービスの認証情報はその中に保管され、パスワードや支払い方法は Muse からは見えません。外部への通信は Muse とは別の見張り役のエージェントが確認し、メールの送信や購入などの前には利用者に確認を求めます。日本での提供状況は公式ページで確認してください。
- Claude Duet(Anthropic):2026年10月の報道によると、同月21日に研究プレビューとして発表された、自分から動くエージェントです。公式ページによると、毎朝のまとめを届け、メッセージで頼まれた作業を引き受け、利用者が離れている間も裏で作業を進めます。6,000以上のコネクタやプラグインとつながり、メッセージの送信や支払いのような慎重さが要る操作の前には利用者に確認を求めます。提供は米国の Pro・Max・Ultra の加入者向けで、ウェイトリスト制です。公式ページでは、スレッドを読み違えたり、急ぎかどうかの判断を誤ったりすることがある、とも説明されています。日本での提供状況は公式ページで確認してください。
- Claude Code(Anthropic):利用者が指定したフォルダの中のファイルを読み、書き換え、ウェブで調べながら作業を進めるエージェントです。デスクトップアプリからも使えます。Anthropic は、社内のマーケティングや法務のチームも Claude Code を業務に使っていると紹介しています。社長業務では、案件フォルダに集めた資料を読ませて提案書や報告書の下書きを作る、ウェブで調べた内容を出典付きでまとめる、散らばったファイルを決めたルールで名前を付け直して整理する、といった任せ方ができます。ファイルの書き換えやウェブへのアクセスなど、多くの操作の前に確認を求めるモードを選べるため、最初はこのモードで使い、任せる範囲を確かめながら広げます。
どの製品も、作業は自分で進め、送信や購入のように取り消しにくい操作の前で止まって承認を求める、という点が共通しています。これは第2章で説明した通知と応答の流れと同じ考え方です。製品を選ぶときも、7-1 で挙げる送信・支払い・公開・契約の4つが承認の対象になるように設定できるかを確かめてください。
3-3 SaaSの役割
SaaS には2つの役割があります。
1つ目は情報の正本です。顧客情報は CRM、予定はカレンダー、お金の記録は会計ソフト、契約書は電子契約サービス、というように、情報ごとに「ここが正しい」という場所を決めます。AI はその正本を読みに行き、結果を正本に書き戻します。
2つ目は実行の場です。メールを送るのはメールサービス、請求書を発行するのは会計ソフトや請求書サービス、契約を締結するのは電子契約サービスです。AI が下書きを作り、社長が OK を出し、実際の操作は SaaS の上で行われます。
情報を AI の中にだけ持たせると、AI のサービスを替えたときや、AI の会話履歴が消えたときに、情報も失われます。記録を SaaS に残しておけば、AI を替えても情報はそのまま残り、新しい AI からも同じ情報を読めます。
3-4 必要なSaaSの種類と役割
ひとり社長の構成に必要な SaaS は、次の11種類です。それぞれ代表的なサービスを例に挙げます。挙げたサービスは、いずれも AI とつながる公式の経路(API・連携機能・MCP サーバー)が用意されています。
| 種類 | 役割 | 代表的なサービス | AI とのつながり方の例 |
|---|---|---|---|
| CRM(顧客管理) | 顧客・取引・接点の正本 | HubSpot、Salesforce | どちらも公式の MCP サーバーを提供。AI から顧客・取引・メモなどを読み書きできる |
| メール | 連絡の受信・送信 | Gmail、Outlook | Gmail は Claude・ChatGPT・Gemini の連携機能や公式 API で、Outlook は Microsoft Graph(公式 API)で、検索・下書き・送信ができる |
| カレンダー | 予定の正本 | Googleカレンダー、Outlook | Googleカレンダーは AI の連携機能や公式 API で、Outlook の予定は Microsoft Graph で読み書きできる |
| ファイル置き場 | 資料・納品物・書類の保管 | Google ドライブ、Dropbox、OneDrive | Google ドライブは AI の連携機能と公式 API、Dropbox は公式の MCP サーバー、OneDrive は Microsoft Graph |
| チャット | 通知の受け取り、外注先とのやり取り | Slack、Microsoft Teams、LINE WORKS | Slack は公式の MCP サーバー、Teams は Microsoft Graph、LINE WORKS は公式 API(Bot によるメッセージ送信など) |
| 会計 | お金の記録の正本、請求書の発行 | freee会計、マネーフォワード クラウド会計 | どちらも公式の MCP サーバーを提供。仕訳や試算表の取得などができる |
| 電子契約 | 契約書の送付・締結・保管 | クラウドサイン | 公式の Web API で、書類の作成から送付までを外部から操作できる |
| 商談の録音・議事録 | 商談の記録、文字起こし | Zoom、Google Meet | Zoom は公式の MCP サーバーで録画・文字起こしにアクセスでき、Google Meet は公式 API で文字起こしを取得できる |
| 問い合わせフォーム | 問い合わせの受付 | Googleフォーム | 公式 API で回答の取得や、回答時の通知の受け取りができる |
| サイト | 発信・情報公開 | WordPress | 公式の REST API で記事の作成・更新ができる |
| ニュース・アラート | 業界の動きの収集 | Googleアラート | 指定したキーワードの新着情報を、メールまたは RSS フィードで受け取れる |
このほか、サイトのアクセス数を見るために Google アナリティクスを使っている場合は、公式の API(Google Analytics Data API)でレポートの数字を取り出せます。また、上の表のサービス同士や AI とのあいだをつなぐ役として、Zapier のような自動化サービスを使う方法もあります。
すべてを最初からそろえる必要はありません。第9章で説明するとおり、まずメール・カレンダー・ファイル・CRM の4つを AI につなぐところから始めます。
3-5 SaaSの選定基準
SaaS を選ぶときは、次の基準で判断します。
- AI からつながるか。公式の API、AI サービス側の公式連携機能、公式の MCP サーバーのどれかがあるかを確かめます。つながらない SaaS に入っている情報は AI が読めず、社長が手で転記することになります。
- 増やしすぎない。同じ役割の SaaS を複数使うと、情報が分かれ、AI がどこを読めばよいか分からなくなります。役割ごとに1つに絞ります。すでに Google Workspace を使っているならメール・カレンダー・ファイルは Google でそろえる、Microsoft 365 を使っているなら Microsoft でそろえる、というように、まとめられるものはまとめます。
- 顧客情報は1か所(CRM)に寄せる。名刺管理、メールの連絡先、表計算のリスト、チャットのやり取りなどに顧客情報が散らばっていると、「この人といつ何を話したか」を AI がまとめられません。顧客と取引の情報は CRM に集め、他の SaaS からは CRM を参照する形にします。入力や要約を AI が支える CRM の考え方は、AI CRMとはで整理しています。
- 記録が SaaS に残るか。AI が処理した内容や社長の応答を、SaaS 側に記録できるかを確かめます。CRM のメモ、会計ソフトの仕訳、ファイル置き場の文書など、AI を替えても残る場所に記録します。
- 権限を細かく分けられるか。AI に「読むだけ」「下書きまで」「実行まで」のどの権限を渡すかを選べるかを確かめます(第7章で説明します)。
3-6 社長のルールを1か所にまとめる方法
AI に毎回同じ説明をしないために、社長のルールを1つの文書にまとめます。この文書を、使うすべての AI が参照するようにすれば、どの AI も同じ基準で動きます。
置き場所は、AI が読めるところにします。たとえば Google ドライブや Dropbox の決まったフォルダに置く、AI サービスの「プロジェクト」や「カスタム指示」などの機能に登録する、といった方法があります。複数の AI を使う場合は、ファイル置き場に正本を1つ置き、各 AI からはそれを読むようにすると、内容がずれません。
書く項目の例は次のとおりです。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 会社の情報 | 会社名、事業内容、主なサービスと価格の考え方、対象とする顧客、対象としない顧客 |
| 話し方 | メールの文体(丁寧さの程度)、使わない言い回し、署名、相手との関係ごとの書き分け |
| 判断の基準 | 受ける案件・受けない案件の条件、値引きの方針、外注先を選ぶ条件、支払いの承認の考え方 |
| やってはいけないこと | 社長の OK なしに送信・支払い・公開・契約しない、価格や納期を確約しない、顧客情報を外部に出さない |
| 通知のルール | 朝のまとめの時刻、急ぎとして扱うもの、通知の届く場所、未応答時の再通知のタイミング |
| 専門家の情報 | 税理士・弁護士・社労士の連絡先、どんな内容をどの専門家に回すか |
| 記録のルール | 何をどの SaaS に記録するか、CRM のどの項目に何を書くか |
| よく使う文面 | 問い合わせへの初回返信、お礼、入金確認、日程調整など |
最初からすべて書く必要はありません。会社の情報、話し方、やってはいけないことの3つから書き始め、使いながら足していきます。
3-7 修正内容をAIに記憶させる方法
「直して」と返したときの修正内容は、その場限りにせず、ルールとして残します。一度直したことを AI に覚えさせ、次から同じことを言わなくて済むようにします。
手順は次のとおりです。
- 社長が「直して」と返す。例:「『させていただきます』は使わないで」
- AI が修正して再通知する。直した版を届けます。
- AI が「ルールに追加しますか」と確認する。同じ種類の修正が2回以上あった場合や、一般化できる修正の場合に、ルールに追加する文面を添えて確認します。例:「話し方のルールに『〜させていただきます は使わない』を追加します」
- 社長が OK を返すと、ルールの文書に追記される。次からはすべての AI がこのルールに沿って下書きします。
この流れを決めておくと、使うほどに直す回数が減ります。ルールの文書は、月に1度見直して、古くなったものや矛盾するものを整理します(第6章の毎月の運用に入れます)。
AI サービスによっては、会話の内容を覚える機能(メモリ機能)を持っているものもあります。ただし、その機能に記録された内容は、そのサービスの中にしか残りません。別の AI に切り替えたときにも使えるよう、ルールの正本は自分のファイル置き場の文書に置いておきます。
第4章 部門別の自動化
この章では、8部門それぞれについて、次の同じ型で自動化の流れを説明します。
- よくある場面:その部門で日々起きること
- きっかけ:AI が動き出すタイミング
- AI の処理:AI が読む情報と、作るもの
- 通知文の例:社長に届く文面
- 社長の応答:5種類のどれを返すことが多いか
- その後:応答のあとに AI と SaaS で起きること
- 人が必ず確認する箇所:AI に任せず、社長が目で見るところ
4-1 マーケティング
記事・SNSの下書き
- よくある場面:発信したほうがよいと分かっていても、書く時間が取れず、更新が止まる。
- きっかけ:毎週決めた曜日の朝(定期)。
- AI の処理:前の週の商談の議事録、よく受けた質問、問い合わせの内容、社長がメモしたネタを読み、記事や SNS 投稿のテーマ案を3つ出します。社長が選んだテーマで下書きを作ります。下書きは、ルールの文書に書いた話し方に合わせます。顧客名や商談の具体的な内容は入れません。
- 通知文の例:
【発信】今週の記事テーマ案(3件)
1. (テーマ)… 先週の商談で2件同じ質問がありました
2. (テーマ)… 問い合わせフォームで増えている相談内容です
3. (テーマ)… 社長メモ((日付))より
おすすめ:1(理由:見込み客が実際に迷っている点のため)
応答:番号で選ぶ/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:番号で選ぶ(OK)。下書きが届いたら、OK か直して。
- その後:OK が出た下書きは、WordPress などのサイトに「下書き」として登録します。公開はしません。社長が公開の OK を出したら公開します。SNS の投稿文も同様に、投稿の OK を受けてから投稿します。
- 人が必ず確認する箇所:事実関係(数字、サービス内容、価格)、顧客が特定できる情報が入っていないか、公開の最終判断。
数字の変化と直し案
- よくある場面:サイトのアクセスや問い合わせの数を見る習慣がなく、落ちていることに気づくのが遅れる。
- きっかけ:毎週の定期確認。数字が大きく動いたときの異常通知。
- AI の処理:Google アナリティクスなどからアクセス数、よく読まれたページ、問い合わせにつながったページを取り出し、前の週・前の月と比べます。大きく変わったページがあれば、変化の候補となる理由(記事の更新、検索での表示の変化、季節など)と、直し案(タイトルの見直し、問い合わせへの導線の追加など)を出します。
- 通知文の例:
【数字】(ページ名)の閲覧が先週から大きく減っています
結論:ページの見出しと冒頭の見直しをおすすめします。
理由:このページは問い合わせにつながる割合が高いページです。
減少は(日付)から始まっています。同じ時期にページの更新はしていません。
直し案:見出し案2つ、冒頭の書き直し案を添付しています
応答:OK(直し案をサイトの下書きに反映)/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:OK か あとで が多くなります。
- その後:OK の場合、直し案をサイトの下書きに反映し、公開の OK を待ちます。反映した日を記録し、翌週以降の数字で変化を追います。
- 人が必ず確認する箇所:理由の推測が妥当か、直し案が自社の方針に合っているか、公開の判断。
問い合わせの増減の理由
- よくある場面:問い合わせが減っても、どこに原因があるのか分からない。
- きっかけ:毎月の定期確認。問い合わせ件数が普段と大きく違うときの異常通知。
- AI の処理:問い合わせフォームの回答と CRM の記録から、問い合わせの数、経路(サイト、紹介、SNS など)、内容の種類を集計し、前の月と比べます。増えた・減った経路と、その時期に行った施策(記事の公開、紹介の依頼など)を並べて示します。
- 通知文の例:
【問い合わせ】今月の問い合わせは前月より減っています
内訳:サイト経由が減少、紹介経由は前月並み
同じ時期の動き:記事の更新が止まっています(最終更新:(日付))
おすすめ:記事の更新を再開する(テーマ案を別途お送りします)
応答:OK/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:OK か あとで。
- その後:OK の場合、記事テーマ案の通知を出し、上の「記事・SNS の下書き」の流れにつなげます。
- 人が必ず確認する箇所:理由の推測が実態と合っているか。AI が出すのは「候補となる理由」であり、確定した原因ではないことを前提に読みます。
4-2 営業
問い合わせ相手の下調べと返信
- よくある場面:問い合わせが来ても、相手の会社を調べてから返信しようとして、返信が遅れる。
- きっかけ:問い合わせフォームへの回答、問い合わせメールの受信(きっかけ)。
- AI の処理:問い合わせの内容を読み、相手の会社のサイトで事業内容・規模を確認します。CRM に過去の接点があるかを調べます。ルールの文書にある「受ける案件・受けない案件の条件」と照らし合わせ、対応の優先度を付けます。返信メールを下書きし、日程調整が必要ならカレンダーの空きから候補日を選んで入れます。CRM に新しい見込み客として登録する内容も用意します。
- 通知文の例:2-5 の例1を参照してください。
- 社長の応答:OK(送信)か直して。条件に合わない場合は やめる。
- その後:OK の場合、メールを送信し、CRM に顧客と取引を登録し、返信した記録を残します。やめるの場合は、お断りの文面を下書きして改めて通知するか、ルールに沿って対応しないことを記録します。
- 人が必ず確認する箇所:返信文の内容(特に価格・納期・できることの範囲)、送信の判断。
商談前の相手メモ
- よくある場面:商談の直前に、前回何を話したかを慌ててメールで探す。
- きっかけ:カレンダーの商談予定の一定時間前(きっかけ)。前日の夕方と、当日の30分前など、2回にするのも一つの方法です。
- AI の処理:カレンダーの予定から相手を特定し、CRM の取引情報、過去の議事録、メールのやり取り、相手の会社の最近の発表を読みます。「相手は誰か」「これまでの経緯」「前回の宿題」「今回決めたいこと」「聞いておくこと」を1枚にまとめます。
- 通知文の例:
【商談前】14時 (会社名)様((相手の役職))
これまで:初回打ち合わせ((日付))、提案書送付((日付))
前回の宿題:こちら → 費用の内訳を出す(送付済み)/先方 → 社内の予算確認
今回決めたいこと:導入時期と担当者
聞いておくこと:予算確認の結果、他社との比較状況
相手の最近の動き:(会社サイトのお知らせより、(内容))
応答:OK(確認済み)/直して(追加で調べてほしいこと)
- 社長の応答:OK(読んだ)。追加で知りたいことがあれば 直して。
- その後:特に処理はありません。メモは CRM の取引に添付しておき、商談後の議事録と合わせて残します。
- 人が必ず確認する箇所:相手の情報が正しいか(人違い・会社違いがないか)。
商談後の議事録とお礼
- よくある場面:商談後に議事録を書く時間がなく、内容を忘れる。お礼メールが翌日以降になる。
- きっかけ:商談の予定の終了時刻、または録音・文字起こしの完成(きっかけ)。
- AI の処理:Zoom や Google Meet の文字起こしを読み、決まったこと、宿題(誰が・何を・いつまでに)、次回の日程、相手の関心が高かった点をまとめた議事録を作ります。お礼メールを下書きし、宿題に見積があれば見積書の下書きも作ります。CRM に登録する内容(取引の段階の更新、次の行動)も用意します。
- 通知文の例:2-5 の例4を参照してください。
- 社長の応答:OK(登録・送信)か直して。
- その後:OK の場合、議事録を CRM に登録し、お礼メールを送り、宿題をカレンダーまたはタスクに登録します。宿題の期限が近づいたら期限の通知を出します。
- 人が必ず確認する箇所:議事録の「決まったこと」が実際と合っているか(文字起こしの聞き間違いや、言っていないことが入っていないか)、送信の判断。
見積
- よくある場面:見積書を作るたびに、過去の見積を探して金額を調べる。
- きっかけ:商談後に見積の依頼があったとき、または見積依頼のメールが届いたとき(きっかけ)。
- AI の処理:依頼の内容、過去の似た案件の見積、ルールの文書にある価格の考え方を読み、見積書を下書きします。値引きを求められている場合は、ルールの値引きの方針に沿って選択肢(値引きしない/範囲を減らす/納期を延ばす など)を並べます。
- 通知文の例:
【見積】(会社名)様 (案件名)の見積書
結論:(金額)で提出するのがおすすめです。
理由:作業範囲は過去の(案件の種類)と同程度です。
先方から値引きの相談がありましたが、ルールに沿い、値引きではなく範囲の調整を案として添えています。
下書き:見積書、送付メール、範囲を減らした場合の別案
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:OK か直して。金額の判断は社長です。
- その後:OK の場合、見積書を発行して送り、CRM の取引に金額と送付日を記録します。一定期間返事がなければ「止まった商談」として通知します。
- 人が必ず確認する箇所:金額、作業範囲、支払い条件、有効期限。
止まった商談
- よくある場面:見積を出したまま返事がなく、そのまま忘れる。
- きっかけ:CRM の取引が一定期間動いていないとき(異常)。期間はルールで決めます(例:2週間)。
- AI の処理:CRM で最後の動きの日付を確認し、止まっている取引を一覧にします。最後のやり取りの内容を読み、確認の連絡を入れるべきか、しばらく待つべきかの案を出し、連絡する場合はメールを下書きします。
- 通知文の例:
【止まった商談】2週間以上動きのない取引が3件あります
1. (会社名)様:見積送付後、返信なし → 確認メールの下書きあり
2. (会社名)様:先方の社内確認待ち(期限は先方から未提示) → 来週まで待つ案
3. (会社名)様:日程調整中に返信が途絶 → 候補日を出し直すメールの下書きあり
応答:番号ごとに OK/直して/やめる(失注として記録)/あとで
- 社長の応答:件ごとに OK・やめる・あとで を選びます。
- その後:OK はメールを送信して CRM に記録、やめるは失注として理由とともに記録、あとでは指定日に再通知します。
- 人が必ず確認する箇所:相手との関係を考えて、連絡するかどうかの判断。
4-3 サービス提供・制作
納品物の下書き
- よくある場面:報告書、提案資料、調査のまとめなど、納品物の作成に時間がかかり、他の業務が止まる。
- きっかけ:案件の作業開始日、または社長が素材(メモ、録音、資料)をファイル置き場の案件フォルダに入れたとき(きっかけ)。
- AI の処理:案件の契約内容、議事録、顧客から受け取った資料、過去の似た納品物を読み、納品物の下書きを作ります。下書きは案件フォルダに保存します。
- 通知文の例:
【制作】(会社名)様 (納品物名)の下書きができました
内容:構成と本文の下書き(案件フォルダに保存済み)
確認してほしい点:3章の数字は先方資料((資料名))から引用しています。最新版か確認が必要です
納期:(日付)(あと5日)
応答:OK(仕上げに進む)/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:直して が多くなります。仕上がったら OK。
- その後:OK の場合、仕上げの体裁を整え、納品メールを下書きして通知します。納品の送信は、改めて社長の OK を受けてから行います。
- 人が必ず確認する箇所:内容の正しさ、顧客の要望に合っているか、納品の送信。
締め切り
- よくある場面:複数の案件の締め切りが重なり、気づいたときには間に合わない。
- きっかけ:締め切りの一定日数前(期限)。毎朝のまとめにも載せます。
- AI の処理:CRM やタスク管理、カレンダーに記録された締め切りを確認し、近いものを並べます。作業の進み具合(下書きができているか、顧客の確認待ちか)も合わせて示します。間に合わない恐れがある場合は、納期の相談メールを下書きします。
- 通知文の例:
【締め切り】今週締め切りの案件が2件あります
1. (会社名)様 (納品物名):(日付)締め切り/下書き完成、社長確認待ち
2. (会社名)様 (納品物名):(日付)締め切り/先方の素材がまだ届いていません
→ 素材の催促メールを下書きしました
応答:番号ごとに OK/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:OK(催促メールの送信など)。
- その後:OK のものを実行し、記録します。
- 人が必ず確認する箇所:納期を延ばす相談をするかどうかの判断。
修正依頼の対応案
- よくある場面:納品後に修正依頼が届き、契約の範囲内か範囲外かを確かめずに対応してしまう。
- きっかけ:顧客から修正依頼のメールが届いたとき(きっかけ)。
- AI の処理:修正依頼の内容を読み、契約書や見積書の作業範囲と照らし合わせます。範囲内なら修正案と返信を、範囲外なら追加費用の見積と説明の返信を下書きします。
- 通知文の例:
【修正依頼】(会社名)様から(納品物名)の修正依頼(3点)
1、2 は契約の範囲内です → 修正案を作成済み
3 は契約の範囲外(新しいページの追加)です → 追加見積の案を作成済み
下書き:修正版、返信メール(3は追加費用の案内)
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:OK か直して。範囲外を無償で受けるかどうかは社長の判断です。
- その後:OK の場合、修正版と返信を送り、追加見積を CRM の取引に記録します。
- 人が必ず確認する箇所:範囲内か範囲外かの判定、追加費用の金額、送信の判断。
4-4 カスタマーサクセス・サポート
利用が減った顧客
- よくある場面:継続契約の顧客の利用が減っていることに気づかず、解約の連絡で初めて知る。
- きっかけ:毎週の定期確認。利用が一定以上減ったときの異常通知。
- AI の処理:サービスの利用記録(利用回数、問い合わせの数、打ち合わせの頻度など、自社で記録しているもの)と CRM の顧客情報を読み、利用が減っている顧客を選びます。最後の接点の内容を確認し、連絡の案(近況伺い、活用方法の案内、打ち合わせの提案)とメールの下書きを作ります。
- 通知文の例:
【利用の減少】(会社名)様の利用がここ1か月で大きく減っています
最後の接点:(日付)の定例打ち合わせ(議事録:先方の担当者が変わる予定と発言)
おすすめ:新しい担当者への引き継ぎの打ち合わせを提案する
下書き:打ち合わせの提案メール(候補日3つ)
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:OK か あとで。
- その後:OK の場合、メールを送り、CRM に記録します。その後の利用の変化を追い、回復しなければ再度通知します。
- 人が必ず確認する箇所:連絡の仕方(相手との関係によっては電話のほうがよい場合もあります)。
更新の案内
- よくある場面:契約の更新時期を忘れ、案内が遅れる。
- きっかけ:契約の更新日の一定日数前(期限)。
- AI の処理:CRM や契約書から更新日と契約条件を確認し、更新の案内メールを下書きします。条件の変更(価格の改定など)がある場合は、ルールの文書に沿って案内文を作ります。利用状況のまとめを添えると、顧客が更新を判断しやすくなります。
- 通知文の例:
【更新】(会社名)様の契約が(日付)に更新を迎えます
今回の条件:前回と同じ(変更なし)
下書き:更新の案内メール、この1年の利用状況のまとめ
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:OK か直して。
- その後:OK の場合、案内を送り、返事がなければ一定日数後に再通知します。更新の合意が取れたら、契約書の送付(電子契約)を下書きし、締結の OK を待ちます。
- 人が必ず確認する箇所:更新条件、契約書の送付と締結。
問い合わせへの回答案
- よくある場面:同じような質問に何度も答えている。答えるたびに過去のメールを探している。
- きっかけ:既存顧客からの問い合わせメールやチャットの受信(きっかけ)。
- AI の処理:問い合わせの内容を読み、よくある質問の文書、過去の回答、契約内容を参照して回答を下書きします。同じ質問が繰り返されている場合は、よくある質問への追加を提案します(③目の前の改善)。
- 通知文の例:
【問い合わせ】(会社名)様から(機能・内容)の使い方について
下書き:回答メール(過去に同じ質問へ回答した内容をもとに作成)
補足:同じ質問は今月3件目です。よくある質問への追加案も作成しました
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:OK。よくある質問への追加も OK。
- その後:回答を送り、CRM に記録します。よくある質問の文書を更新します。
- 人が必ず確認する箇所:回答の正しさ、契約にないことを約束していないか。
4-5 経理・財務
請求書の作成
- よくある場面:月末に請求書をまとめて作り、金額や宛先の確認に時間がかかる。発行を忘れる月がある。
- きっかけ:毎月の請求日の数日前(期限)。単発の案件は、納品が完了したとき(きっかけ)。
- AI の処理:CRM の取引情報、契約の条件、納品の記録を読み、請求する案件と金額を一覧にします。freee会計やマネーフォワード クラウド会計などの会計ソフト、または請求書の機能に、請求書を下書きとして作成します。前の月と金額が違う案件には、その理由(追加作業、日割りなど)を添えます。
- 通知文の例:
【請求】今月の請求書(5件)の下書きができました
1〜4:先月と同じ金額(継続契約)
5:(会社名)様 前月より増額(追加作業分、(日付)の見積に基づく)
請求日:(日付)/支払期日:(日付)
応答:OK(発行・送付)/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:OK か直して。
- その後:OK の場合、請求書を発行して送付し、送付した記録を残します。支払期日を入金確認の期限として登録します。
- 人が必ず確認する箇所:金額、宛先、支払期日、送付の判断。
入金確認と催促
- よくある場面:入金の確認を後回しにして、未入金に気づくのが遅れる。催促のメールを書くのが気が重く、先延ばしになる。
- きっかけ:支払期日の翌日以降(異常)。毎週の定期確認。
- AI の処理:会計ソフトの入金明細と請求書を照らし合わせ、入金済み・未入金を確認します。未入金のものは、相手の過去の入金履歴を確認し、確認のメールを下書きします。何度目の連絡かによって文面の丁寧さを変えるよう、ルールの文書に書いておきます。
- 通知文の例:2-5 の例2を参照してください。
- 社長の応答:OK(送信)。長期の未入金は 専門家に回す。
- その後:OK の場合、メールを送り、催促した日を記録します。入金が確認できたら消し込みの記録をし、通知を閉じます。入金がなければ、ルールで決めた日数後に再通知します。
- 人が必ず確認する箇所:相手との関係を考えた文面、送信の判断。法的な手続きが必要かどうかの判断は弁護士に相談します。
経費
- よくある場面:領収書が溜まり、月末にまとめて入力する。何の支払いだったか思い出せない。
- きっかけ:領収書の画像をファイル置き場の決まったフォルダに入れたとき、またはメールで領収書が届いたとき(きっかけ)。毎月の締めの前(期限)。
- AI の処理:領収書の内容(日付、金額、支払先)を読み取り、カレンダーの予定と照らし合わせて用途の候補(どの商談の交通費か、など)を付けます。勘定科目の案を付けて、会計ソフトに登録する内容を用意します。判断に迷うものには印を付けます。
- 通知文の例:
【経費】今週の領収書(8件)を登録の準備ができました
6件:通常どおり(勘定科目の案を付けています)
2件:判断が必要
・(支払先)(金額):カレンダー上は(会社名)様との会食の日です。会議費か交際費か
・(支払先)(金額):私用か事業用か判断できません
応答:OK(登録)/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:OK。迷うものは直して(一言で用途を伝える)か専門家に回す。
- その後:OK の場合、会計ソフトに登録します。直してで伝えた用途の判断は、ルールとして記録し、次から同じ種類の支払いに使います。
- 人が必ず確認する箇所:事業用かどうか、勘定科目の判断で迷うもの。税務の判断は税理士に確認します。
手元資金の見込み
- よくある場面:口座の残高だけを見ていて、数か月先に資金が足りなくなることに気づかない。
- きっかけ:毎月の定期確認。残高の見込みが決めた水準を下回るときの異常通知。
- AI の処理:会計ソフトの残高、入金予定(発行済みの請求書)、支払い予定(固定費、外注費、税金の納付予定)を読み、この先数か月の手元資金の見込みを作ります。
- 通知文の例:
【資金】今後3か月の手元資金の見込み
(月):見込み残高(金額)
(月):見込み残高(金額) ← 税金の納付があり、決めた水準を下回る見込み
(月):見込み残高(金額)
おすすめ:(会社名)様の大口請求の入金日を確認する/税理士に納付額を確認する
応答:OK/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:OK か専門家に回す。
- その後:OK の場合、入金日の確認メールを下書きして通知します。専門家に回すの場合は、税理士への相談文を作ります。
- 人が必ず確認する箇所:見込みの前提(入金予定が確実か、支払いの漏れがないか)、借入や支払いの判断。
税理士への相談
- よくある場面:聞きたいことがあっても、資料をそろえて説明するのが面倒で、決算前にまとめて聞くことになる。
- きっかけ:社長が通知に「専門家に回す」で応答したとき。決算や申告の時期の前(期限)。
- AI の処理:相談したい内容、関係する仕訳・領収書・契約書・メールを集め、税理士が読んですぐ分かる形にまとめます。依頼文を下書きします。
- 通知文の例:2-5 の例6を参照してください。
- 社長の応答:OK(送信)か直して。
- その後:送信後、返答待ちとして記録します。返答が届いたら要約し、「税理士の回答はこう、それを踏まえて会計ソフトの登録をこう直す案」という形で通知します。回答の内容はルールの文書にも反映し、次から同じ判断に使います。
- 人が必ず確認する箇所:送る資料に不要な情報が含まれていないか、税理士の回答をどう反映するかの判断。
4-6 総務・法務
契約書の確認
- よくある場面:取引先から届いた契約書を、時間がなくて十分に読まずに締結してしまう。
- きっかけ:契約書が添付されたメール、または電子契約サービスで署名の依頼が届いたとき(きっかけ)。
- AI の処理:契約書を読み、ルールの文書に書いた「確認する項目」(支払い条件、損害賠償の上限、契約期間と自動更新、解約の条件、成果物の権利、秘密保持の範囲など)に沿って要点をまとめます。自社のいつもの条件と違う箇所、一般的に注意が必要とされる条項に印を付けます。
- 通知文の例:
【契約書】(会社名)様から(契約書名)の確認依頼
要点:契約期間1年・自動更新/支払いは月末締め翌月末払い
いつもの条件と違う箇所(2点)
1. 損害賠償の上限の定めがありません
2. 成果物の権利がすべて先方に移る内容です
おすすめ:2点について弁護士に確認する
応答:OK(締結へ進む)/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:専門家に回す、または OK。
- その後:専門家に回すの場合、弁護士への相談文と契約書をまとめて下書きします。OK の場合、電子契約サービスで締結の手続きに進みますが、署名・締結そのものは社長が電子契約サービスの画面で行います。
- 人が必ず確認する箇所:契約書の内容全体、締結の判断。AI の要約は確認の補助であり、法的な判断の代わりにはなりません。
更新期限
- よくある場面:使っていないサービスが自動更新されて、1年分の費用が発生する。
- きっかけ:契約の解約申し入れ期限の一定日数前(期限)。
- AI の処理:クラウドサインなどの電子契約サービスに保管された契約書や、契約書のファイルから、契約期間、自動更新の有無、解約の申し入れ期限を読み取り、一覧にしておきます。期限が近づいたら、利用状況と支払いの記録を合わせて通知します。
- 通知文の例:2-5 の例3を参照してください。
- 社長の応答:OK(継続)か やめる(解約)。
- その後:やめるの場合、解約の申し入れ文を下書きし、送信の OK を待ちます。継続の場合は、次の期限を登録します。
- 人が必ず確認する箇所:継続するかどうかの判断、解約の申し入れの送信。
届出や支払いの期限
- よくある場面:税金や社会保険の納付、役所への届出、更新の手続きの期限を忘れる。
- きっかけ:期限の一定日数前(期限)。毎朝のまとめに載せます。
- AI の処理:ルールの文書に書いた年間の期限一覧(税理士・社労士から聞いた期限を含む)と、届いた通知書のメールや書類を読み、近い期限を知らせます。必要な書類がそろっているかも確認します。
- 通知文の例:
【期限】(届出・納付の名称)の期限まであと7日
必要なもの:(書類名)、(書類名)(ファイル置き場に保存済み)
不足:(書類名)が見つかりません
おすすめ:税理士に提出を依頼済みか確認する
応答:OK/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:OK か専門家に回す。
- その後:期限が過ぎるまで、応答がなければ再通知します。支払いは社長が金融機関や会計ソフトの画面で実行します。
- 人が必ず確認する箇所:提出・納付の実行、金額。
弁護士への相談
- よくある場面:取引先とのトラブルや契約の疑問を、どう説明すればよいか分からず相談が遅れる。
- きっかけ:社長が「専門家に回す」で応答したとき。
- AI の処理:経緯を時系列にまとめ、関係するメール・契約書・議事録を集め、聞きたいことを箇条書きにした相談文を下書きします。
- 通知文の例:
【専門家に回す】弁護士への相談文を作成しました
相談内容:(会社名)様との契約の(条項)について
経緯:時系列のまとめ(メール5通、契約書、議事録2件から作成)
聞きたいこと:3点
応答:OK で送信/直して/やめる
- 社長の応答:OK か直して。
- その後:送信後、返答を待ちます。返答が届いたら要約して通知し、対応案(相手への返信の下書きなど)を添えます。
- 人が必ず確認する箇所:送る情報の範囲(相手との関係で出すべきでない情報が入っていないか)、弁護士の助言をどう反映するか。
4-7 人事・外注管理
外注先の候補
- よくある場面:仕事を頼みたいときに、誰に頼めばよいか探すところから始まる。
- きっかけ:社長が「外注先を探して」と依頼したとき、または受注した案件に外注が必要と判断されたとき。
- AI の処理:過去に依頼した外注先の記録(CRM やファイル置き場の依頼記録、納品の評価、支払いの記録)を読み、条件に合う候補を並べます。過去の依頼先で足りない場合は、社長が普段使っている依頼先の探し方(紹介、所属団体など)に沿って候補の探し方を提案します。
- 通知文の例:
【外注】(案件名)の外注先候補(3件)
1. (外注先):過去に2回依頼、納期どおり/今回の作業内容と同じ分野
2. (外注先):過去に1回依頼、修正が多かった記録あり
3. (外注先):依頼実績なし、紹介者((紹介者の会社名))の推薦
おすすめ:1(理由:同じ分野の実績と納期の記録)
応答:番号で選ぶ/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:番号で選ぶ(OK)。
- その後:選んだ相手への依頼文を下書きして通知します。
- 人が必ず確認する箇所:依頼先の決定。
依頼文
- よくある場面:依頼の内容を毎回一から書き、伝え漏れがあって手戻りが起きる。
- きっかけ:外注先を選んだとき。
- AI の処理:案件の内容、納期、予算、成果物の形式、守ってほしいこと(秘密保持、顧客名の扱いなど)を、ルールの文書の依頼文の型に沿ってまとめます。秘密保持の取り決めがまだない相手には、その手続きを先に案内します。
- 通知文の例:
【依頼文】(外注先)への依頼文を作成しました
内容:作業内容、納期((日付))、金額((金額))、納品形式、確認の流れ
注意:この相手とは秘密保持の取り決めがまだありません。先に取り交わす案内を入れています
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:OK か直して。
- その後:送信し、依頼の記録(金額、納期)を残します。納期を期限として登録します。
- 人が必ず確認する箇所:金額、納期、渡す情報の範囲、送信の判断。
納品の確認
- よくある場面:外注先からの納品物を確認しきれず、そのまま顧客に出してしまう。支払いを忘れる。
- きっかけ:外注先から納品のメールやファイルが届いたとき(きっかけ)。納期を過ぎても届かないとき(異常)。
- AI の処理:依頼文に書いた条件(作業範囲、形式、分量など)と納品物を照らし合わせ、足りない点や違う点を一覧にします。問題がなければ、支払いの登録内容(金額、支払日)を用意します。
- 通知文の例:
【納品】(外注先)から(成果物)が届きました
依頼条件との照合:形式・分量は条件どおり
気になる点:2か所、依頼文の指定と表記が違います(一覧を添付)
おすすめ:2か所の修正を依頼してから受け取る
下書き:修正依頼のメール
応答:OK で送信/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:OK(修正依頼の送信、または受け取り)。
- その後:受け取りが決まったら、支払いの予定を会計ソフトに登録する内容を用意し、支払日の前に通知します。支払いの実行は社長が行います。
- 人が必ず確認する箇所:納品物の品質、支払いの実行。
社労士への相談
- よくある場面:人を雇うか、外注のままにするかで迷う。外注先との関係が雇用に近くなっていないか気になる。
- きっかけ:社長が「専門家に回す」で応答したとき。人を雇う検討を始めたとき。
- AI の処理:検討している働き方(業務の内容、時間、指示の出し方、報酬の形)を整理し、社労士に確認したい点をまとめた相談文を下書きします。
- 通知文の例:
【専門家に回す】社労士への相談文を作成しました
相談内容:(業務内容)を、外注のまま継続するか雇用に切り替えるか
整理した内容:今の依頼の頻度・時間・指示の出し方
聞きたいこと:雇用に切り替える場合に必要な手続き、外注を続ける場合の注意点
応答:OK で送信/直して/やめる
- 社長の応答:OK か直して。
- その後:返答を要約して通知し、必要な手続きを期限として登録します。
- 人が必ず確認する箇所:雇用・契約の形の判断。
4-8 経営企画
月の振り返り
- よくある場面:月が終わっても振り返る時間がなく、同じ問題を翌月も繰り返す。
- きっかけ:毎月の初め(定期)。
- AI の処理:前の月の売上と入金(会計ソフト)、商談の数と受注・失注(CRM)、問い合わせの数と経路、使った時間(カレンダー)、社長が「やめる」「あとで」と応答した件数と内容を読み、振り返りのまとめを作ります。目標を決めている場合は、目標との差も示します。
- 通知文の例:
【月の振り返り】(月)のまとめ
売上:(金額)(前月比、目標比)
商談:新規(件数)、受注(件数)、失注(件数)/失注の主な理由:価格
時間の使い方:商談(時間)、制作(時間)、事務(時間)
目立った点:失注の理由が価格に集中しています
次の月の案:見積の段階で範囲を減らした別案を出す(ルールに追加する案)
応答:OK/直して/やめる/あとで
- 社長の応答:OK(ルールへの追加など)、または直して。
- その後:OK の場合、ルールの文書を更新し、翌月の運用に反映します。振り返りのまとめはファイル置き場に保存します。
- 人が必ず確認する箇所:数字の読み方、次の月に何を変えるかの判断。
業界の動き
- よくある場面:業界のニュースを読む時間がなく、取引先との会話で初めて知る。
- きっかけ:毎週の定期確認。重要度が高いものはその場で通知。
- AI の処理:Googleアラートなどで集めたニュースを読み、自社に関係のあるものを選び、なぜ大事かと打ち手の案を添えます。詳しい流れは第5章で説明します。
- 通知文の例:第5章の 5-4 を参照してください。
- 社長の応答:深掘り・試す・捨てる を選びます。
- その後:第5章の 5-5 を参照してください。
- 人が必ず確認する箇所:自社への影響の判断。
次の一手の案
- よくある場面:やりたいことはあるが、どれから手を付けるか決められない。
- きっかけ:四半期ごと(定期)。
- AI の処理:月の振り返りの3か月分、業界の動き、「試す」を選んだ施策の結果を読み、次の四半期に取り組む候補を並べます。それぞれに、必要な時間とお金の見込み(自社の記録から分かる範囲)、関係する部門、最初の一歩を付けます。
- 通知文の例:
【次の一手】次の四半期の候補(3件)
1. (施策):最初の一歩=(具体的な行動)/関係する部門:営業・マーケティング
2. (施策):最初の一歩=(具体的な行動)/関係する部門:サービス提供
3. (施策):最初の一歩=(具体的な行動)/関係する部門:経営企画
おすすめ:1(理由:この3か月の失注理由と、業界の動きの両方に関係するため)
応答:番号で選ぶ/直して/やめる/あとで/専門家に回す
- 社長の応答:選ぶ、または直して。
- その後:選んだ施策を、部門ごとの通知の設定やルールに落とし込む案を作り、通知します。
- 人が必ず確認する箇所:何に取り組むかの決定。
4-9 8部門の一覧表
8部門の自動化を一覧にまとめます。
| 部門 | 主なきっかけ | AI がすること | 社長の主な応答 | 人が必ず確認する箇所 |
|---|---|---|---|---|
| マーケティング | 毎週の定期、数字の急変 | テーマ案、記事・SNS の下書き、数字の比較と直し案 | テーマを選ぶ、OK、直して | 事実関係、顧客情報の混入、公開の判断 |
| 営業 | 問い合わせ受信、商談の前後、取引の停滞 | 相手の下調べ、返信・お礼・見積の下書き、議事録、CRM への登録案 | OK、直して、やめる | 価格・納期・範囲、議事録の正しさ、送信 |
| サービス提供・制作 | 作業開始、締め切り前、修正依頼の受信 | 納品物の下書き、締め切りの一覧、範囲内外の判定と返信案 | 直して、OK | 内容の正しさ、範囲外の扱い、納品の送信 |
| カスタマーサクセス・サポート | 毎週の定期、更新日の前、問い合わせ受信 | 利用減少の検知、更新案内・回答の下書き、よくある質問の追加案 | OK、あとで | 回答の正しさ、更新条件、契約の締結 |
| 経理・財務 | 請求日の前、入金期日の後、領収書の追加、毎月 | 請求書・催促文の下書き、経費の登録案、資金の見込み、税理士への相談文 | OK、専門家に回す | 金額、宛先、事業用かの判断、支払いの実行 |
| 総務・法務 | 契約書の受信、更新・届出の期限前 | 契約書の要点と注意点、期限の一覧、弁護士への相談文 | 専門家に回す、OK、やめる | 契約内容、締結、提出・納付の実行 |
| 人事・外注管理 | 外注の必要が出たとき、納品の受信、納期の超過 | 候補の一覧、依頼文、納品物の照合、支払いの登録案、社労士への相談文 | 選ぶ、OK | 依頼先の決定、品質、支払いの実行 |
| 経営企画 | 毎月・四半期の定期、業界ニュース | 月の振り返り、業界の動きの要約、次の一手の候補 | OK、直して、深掘り・試す・捨てる | 数字の読み方、何に取り組むかの決定 |
第5章 新規事業・トレンド調査の自動化
5-1 新規事業の検討が後回しになる原因
新規事業や将来のビジネスづくり(④)は、どの社長も大事だと分かっていながら、後回しになりやすい区分です。原因は次のとおりです。
- 期限がない。請求書や返信には期限がありますが、新規事業の検討には期限がありません。期限のある仕事が先に片付けられ、検討の時間が残りません。
- 情報を集めるのに時間がかかる。ニュース、業界団体の発表、規制の変更、新しいサービスなど、見るべき情報が多く、読む時間が取れません。
- 集めた情報が自社にどう関係するか考える余裕がない。情報を読んでも、自社にとって何を意味するかを考えるところまで進みません。
- 検討の結果を残す場所がない。思いついたことがメモに散らばり、次に考えるときにまた一から始めることになります。
通知型の運用では、情報を集めて選び、要点と打ち手を添えるところまでを AI に渡し、社長は「読んで選ぶ」だけにします。検討の結果は記録として残します。
5-2 調査テーマの決め方
何を調べるかのテーマは、社長が決めます。AI に任せると、自社の方向と関係の薄い情報まで集まり、通知が増えるだけになります。
テーマは、次の4つの観点から3〜5個程度を選ぶと整理しやすくなります。
| 観点 | テーマの例 |
|---|---|
| 今の顧客の業界 | 顧客の業界で起きている変化、規制の変更、大手企業の動き |
| 自社のサービスの分野 | 同じ分野の新しいサービス、価格の動き、新しい技術 |
| 自社の業務に影響する制度 | 税制、契約や取引に関する法令、補助金・助成金 |
| 社長が関心を持っている新しい分野 | 次に取り組みたい事業に関係する市場や技術 |
テーマごとに、Googleアラートなどに登録するキーワードを決めます。キーワードは、広すぎると関係のない情報が大量に届き、狭すぎると何も届きません。最初は少し広めに設定し、届いた情報を見ながら絞り込みます。キーワードの見直しも、AI が「このキーワードは関係のない情報が多い」と提案し、社長が OK を返す形にできます。
テーマとキーワードは、ルールの文書に「調査テーマ」として書いておきます。
5-3 情報収集から通知までの流れ
トレンド調査の流れは次の6段階です。
- トレンド調査のテーマを決める(社長):5-2 のとおり、テーマとキーワードを決めます。
- Googleアラートに登録する:Googleアラートは、指定したキーワードに一致する新しい情報が見つかると知らせてくれる Google のサービスです。キーワードごとにアラートを作り、配信の頻度、言語、地域、件数を設定します。配信先は登録したメールアドレスのほか、RSS フィードを選ぶこともできます。
- AI が読み込む(連携):メールで受け取る場合は、Gmail などでアラートのメールに自動でラベルを付ける(フィルタを設定する)と、AI がそのラベルのメールだけを読めます。RSS フィードで受け取る場合は、フィードを読み込める自動化サービスや AI の機能を使います。業界団体や官公庁のお知らせなど、アラート以外に定期的に見たいページがあれば、それも読み込み先に加えます。
- AI が選ぶ(リコメンド):集めた情報のうち、自社に関係のあるものを選びます。選ぶときの基準は、ルールの文書に書いた会社の情報(事業内容、顧客、サービス)と調査テーマです。選んだものには、なぜ自社にとって大事か、どんな打ち手が考えられるかを添えます。同じ話題の記事が複数あれば1件にまとめます。
- 通知する:毎週決めた曜日の朝に、まとめて通知します。自社に大きく影響しそうなもの(取引に関わる制度の変更など)は、その場で通知します。
- エグゼクティブサマリを読んで選ぶ(社長):通知はエグゼクティブサマリ(要点だけを短くまとめたもの)の形で届きます。社長は1件ずつ「深掘り」「試す」「捨てる」を選びます。
5-4 エグゼクティブサマリの項目
エグゼクティブサマリは、1件ごとに次の3項目で構成します。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 何が起きた | 事実だけを短く。いつ、誰が、何を発表・変更したか。元の情報の出典 |
| 自社に関係あるか | 関係の度合い(大・中・小)と、その理由。どの顧客・どのサービス・どの部門に関係するか |
| 試せること | 自社でできる最初の一歩。小さく試せる形で書く |
通知文の例
【トレンド】今週の業界の動き(3件)
1. (発表した組織)が(内容)を発表((日付)、出典:(出典名))
関係:大 既存顧客の(業種)に直接関係します。顧客から質問が来る可能性があります
試せること:顧客向けに、この変更の要点をまとめた案内文を用意する
→ 深掘り/試す/捨てる
2. (分野)で(新しいサービス・技術)が登場(出典:(出典名))
関係:中 自社の(サービス名)の一部の作業に使える可能性があります
試せること:無料で使える範囲で、自社の作業1件に使ってみる
→ 深掘り/試す/捨てる
3. (補助金・制度の名称)の募集開始(出典:(出典名))
関係:小 対象要件のうち(要件)を満たしているか不明です
試せること:要件を税理士または支援機関に確認する
→ 深掘り/試す/捨てる/専門家に回す
5-5 「深掘り・試す・捨てる」を選んだあとの処理
| 選択 | AI がすること | 記録 |
|---|---|---|
| 深掘り | 関連する情報を追加で調べ、詳しいレポートを作る。自社への影響、競合の動き、必要な準備などを整理し、数日以内に通知する | 調査テーマの記録に「深掘り中」として残す |
| 試す | 最初の一歩を具体的な作業に分け、必要な準備(時間、費用、関係する SaaS の設定)を一覧にする。カレンダーに検討の時間を入れる案を出す。試した結果を確認する日を決めて登録する | 「試す」の一覧に、始めた日・確認する日とともに残す |
| 捨てる | それ以上調べない。同じ話題の情報は今後の通知から外すか、関係度を下げて扱う | 捨てた理由(一言)とともに残す。同じ提案を繰り返さない |
「深掘り」のレポートを読んだあとも、社長は改めて「試す」「捨てる」「あとで」を選びます。「試す」を選んだものは、確認の日に結果をまとめて通知し、続けるか、やめるか、事業として検討するかを社長が決めます。
この記録が溜まると、四半期ごとの「次の一手の案」(4-8)の材料になります。
5-6 検討時間の確保の仕方
情報が届いても、考える時間がなければ検討は進みません。検討の時間は、次の方法で確保します。
- カレンダーに検討の時間を固定で入れる。毎週決めた曜日・時間帯を「新規事業の検討」としてカレンダーに入れます。他の予定を入れないようにします。
- トレンドの通知を、検討の時間の直前に届くようにする。検討の時間の朝に、その週のエグゼクティブサマリが届くように設定します。届いた通知をその時間に読み、深掘り・試す・捨てるを選びます。
- 他の業務の通知を、検討の時間中は止める。急ぎのもの以外は、検討の時間が終わってから届くようにします。
- 検討の時間に何を考えるかを、AI が前日に準備する。「試す」の結果確認、「深掘り」のレポート、前回の検討のメモをまとめて、検討の時間に読める状態にしておきます。
②作業と⑥管理を AI に渡して空いた時間を、この検討の時間に充てます。
第6章 運用スケジュール
ここまでの通知を、1日・1週・1か月・四半期の流れにまとめます。
6-1 毎朝
| 時間帯 | AI がすること | 社長がすること |
|---|---|---|
| 社長が仕事を始める前 | 前日から届いたメールの仕分け、今日の予定と準備メモ、期限が近いもの、返事待ちの案件、未入金、下書き済みの返信をまとめ、朝のまとめとして届ける | — |
| 仕事の始め | — | 朝のまとめを読み、項目ごとに応答する |
| 応答のあと | OK が出たものを実行し、記録する。直してのものを直して再通知する | — |
朝のまとめの構成は 2-5 の例5を参照してください。項目の順番は「今日決めること」「今日送るもの」「今日の予定」「期限が近いもの」「返事待ち」とし、判断が必要なものを先に置きます。
6-2 日中
日中は、急ぎのものだけがその場で届きます。
- 問い合わせの受信(返信の下書き付き)
- 商談の前(相手メモ)
- 当日が期限のもので、まだ応答がないもの
- ルールで急ぎと決めた異常(大口の入金遅れなど)
それ以外は翌朝のまとめに回ります。社長は、商談や制作、検討の時間に集中できます。
6-3 商談後
商談が終わると、次の流れが動きます。
- 録音の文字起こしができたら、AI が議事録、お礼メール、宿題の一覧、見積などの下書きを作ります。
- 商談後の通知が届きます(2-5 の例4)。
- 社長が OK を返すと、議事録が CRM に登録され、お礼メールが送られ、宿題が期限として登録されます。
商談が続く日は、商談ごとに通知を出さず、その日の終わりにまとめて届けるように設定することもできます。
6-4 毎週
| 曜日の例 | 通知 | 内容 |
|---|---|---|
| 週の初め | 今週の見通し | 今週の予定、締め切り、請求・支払いの予定、止まった商談 |
| 週の初め | 発信のテーマ案 | 記事・SNS のテーマ案(4-1) |
| 週の半ば | 業界の動き | トレンド調査のエグゼクティブサマリ(第5章) |
| 週の終わり | 今週のまとめ | 今週の受注・失注、送ったもの、未応答の通知の一覧、来週に持ち越すもの |
6-5 毎月
| 時期 | 通知 | 内容 |
|---|---|---|
| 月の初め | 月の振り返り | 売上、商談、問い合わせ、時間の使い方、次の月の案(4-8) |
| 月の初め | ルールの見直し | 先月追加したルール、矛盾や古くなったルールの候補 |
| 請求日の前 | 請求書 | 今月の請求書の下書き(4-5) |
| 月の半ば | 資金の見込み | 今後数か月の手元資金の見込み(4-5) |
| 月末 | 経費の締め | 未登録の領収書、判断が必要な経費 |
6-6 四半期
| 通知 | 内容 |
|---|---|
| 次の一手の案 | 3か月分の振り返りと、業界の動き、試した施策の結果から、次の四半期の候補(4-8) |
| 調査テーマの見直し | 調査テーマとキーワードごとの、届いた件数と選ばれた件数。見直しの案 |
| 通知の見直し | 通知の種類ごとの件数と応答の内訳。応答されないことが多い通知、毎回「やめる」になる通知の一覧と、止める・まとめる案 |
| SaaS と権限の見直し | 使っていない SaaS、AI に渡している権限の一覧(第7章)、契約の更新期限 |
6-7 案件状況の問い合わせ
通知を待たずに、社長から AI に案件の状況を尋ねることもできます。対話型の AI に「(会社名)様の案件はどうなっている?」と聞くと、CRM・メール・カレンダー・ファイル置き場から情報を集めて答えます。
答えの形式は、案件ごとに次の3行にそろえるよう、ルールの文書に書いておきます。
(会社名)様 (案件名)
今どこ:見積を送付済み((日付))。先方の社内確認中
止まっている理由:先方の担当者からの返信が(日数)ないため
次の一手:確認のメールを送る(下書きあり)→ OK で送信
複数の案件をまとめて聞いた場合も、同じ3行を案件の数だけ並べます。
今動いている案件の状況
1. (会社名)様 (案件名)
今どこ:制作中(納期(日付))
止まっている理由:なし
次の一手:下書きの確認((日付)に通知予定)
2. (会社名)様 (案件名)
今どこ:契約書の確認中
止まっている理由:弁護士の回答待ち((日付)に依頼)
次の一手:回答が届いたら要約して通知
3. (会社名)様 (案件名)
今どこ:入金待ち(期日(日付))
止まっている理由:なし
次の一手:期日の翌日に入金を確認
この形式にそろえておくと、社長は「止まっている理由」と「次の一手」だけを見れば、何をすればよいかが分かります。
第7章 任せる範囲と安全対策
7-1 社長が最終確認する操作
次の4つの操作は、どの部門・どの区分でも、社長の OK があって初めて実行します。
| 操作 | 例 | 理由 |
|---|---|---|
| 送信 | メール、チャットのメッセージ、見積書・請求書・納品物の送付、専門家への依頼 | 送ったものは取り消せない。相手との関係や約束に直結する |
| 支払い | 外注費、経費、税金、サービスの利用料 | お金が出ていく。誤ると取り戻すのに手間がかかる |
| 公開 | サイトの記事、SNS の投稿、お知らせ | 不特定多数が見る。誤りが広がる |
| 契約 | 契約の締結、更新、解約の申し入れ | 法的な約束になる |
この4つについては、AI は下書きと準備までを行い、実行は社長の OK のあとにします。AI サービスの中には、送信などの操作の前に承認を求める設定を持つものがあります。たとえば Claude の Gmail 連携では、メールの送信・返信・転送は、標準の設定で実行前に承認が必要です。こうした設定は外さずに使います。
支払いと契約の締結は、AI に実行の権限を渡さず、社長自身が金融機関・会計ソフト・電子契約サービスの画面で行う形にしておくと、より確実です。
7-2 AIに渡す権限の段階
AI を SaaS につなぐときは、どこまでの操作を許すかを段階で決めます。
| 段階 | AI ができること | 向いている SaaS・業務 |
|---|---|---|
| 閲覧 | 読むだけ。検索・要約・一覧化 | 会計の数字、契約書、顧客情報の参照、ニュース |
| 下書き | 下書きの作成、下書き状態での登録 | メールの下書き、サイトの記事の下書き、請求書の下書き、CRM へのメモの追加 |
| 実行 | 送信・登録・変更を実際に行う | 社長の OK を受けたあとの送信、予定の登録、CRM の更新 |
最初はすべて「閲覧」から始め、慣れてきたら「下書き」、OK を受けたあとの操作だけ「実行」と広げていきます。
多くの SaaS では、AI をつなぐときに、どの操作を許可するかを選べます。HubSpot の MCP サーバーは、接続に使うアプリの権限の範囲(スコープ)で AI がアクセスできる範囲が決まります。Claude のコネクタは、接続したユーザーが元のサービスで持っている権限を引き継ぐため、そのユーザーが見られないファイルや記録は AI からも見られません。接続の画面で表示される許可の内容を確認し、必要以上の権限を渡さないようにします。
役割ごとの権限の表と、AI の操作を社長の承認へ戻す条件の決め方は、AIエージェントの権限設計で詳しく扱っています。
7-3 操作記録の残し方
AI が何をしたかを、あとから確かめられるようにしておきます。
- AI が実行した操作は、実行した SaaS に記録が残るようにする。CRM の活動履歴、メールの送信済みフォルダ、会計ソフトの登録履歴などです。
- 社長の応答を記録する。どの通知にどう応答したか(OK、直して、やめる、あとで、専門家に回す)と、その日時を残します。CRM の取引のメモや、ファイル置き場の記録用の文書に残す方法があります。
- やめるの理由を記録する。同じ提案を繰り返さないための記録であり、後で判断の基準を見直すときの材料にもなります。
- AI サービスの実行履歴を確認できるようにする。定期実行の機能には、実行の結果や履歴を確認できる画面があります。うまく動かなかったときの確認に使います。
7-4 誤りがあったときの戻し方
AI が誤った下書きを作ることや、誤った内容を登録することはあります。誤りに気づいたときの戻し方を、あらかじめ決めておきます。
| 誤りの種類 | 戻し方 |
|---|---|
| 下書きの誤り(送信前) | 「直して」で修正する。繰り返す誤りはルールに追加する |
| CRM や会計ソフトへの登録の誤り | SaaS の変更履歴から元の内容を確認し、修正する。どの通知・どの応答から登録されたかを記録で確認する |
| 送信してしまった誤り | 訂正の連絡を社長が送る。AI に訂正文を下書きさせ、OK を出して送る |
| 定期実行の誤り(毎回同じ誤りが出る) | その定期実行を一時停止し、指示の内容やルールを直してから再開する |
送信・支払い・公開・契約を社長の OK のあとに限っておけば、誤りの多くは送信前の段階で止められます。7-1 の線を守ることが、もっとも確実な誤り対策です。
7-5 税理士・弁護士・社労士に回す範囲
AI は、資料をまとめたり、一般的な情報を調べたりすることはできますが、税務・法務・労務の判断の責任は持てません。次のようなものは、AI のまとめを参考にしたうえで専門家に回します。
| 専門家 | 回す内容の例 |
|---|---|
| 税理士 | 経費にできるかの判断、税金の計算と申告、決算、資金調達や大きな投資の税務上の扱い |
| 弁護士 | 契約書の条項の判断(損害賠償、権利、解約など)、取引先とのトラブル、未入金の法的な対応 |
| 社労士 | 人を雇うときの手続き、外注と雇用の区別、社会保険・労働保険の手続き |
どれを専門家に回すかの基準は、ルールの文書に書いておきます。AI が通知を作るときに、その基準に当たるものには「専門家に回すのがおすすめ」と添えるようにします。
7-6 顧客情報の扱い
顧客情報を AI に扱わせるときは、次の点を確認します。
- AI サービスのデータの扱いを確認する。入力した内容や接続したサービスから読んだ内容が、AI の学習に使われるかどうかは、サービスやプランによって違います。利用規約やプライバシーに関する公式ページで確認し、学習に使われない設定やプランを選びます。
- AI に渡す範囲を必要な分に絞る。7-2 の権限の段階を守り、AI が読める SaaS とフォルダを決めます。
- 外部に出す文書から顧客情報を外す。記事や SNS の下書き、外注先への依頼文、専門家への相談文に、必要のない顧客情報が入っていないかを確認します。ルールの文書の「やってはいけないこと」に書いておきます。
- 顧客との契約で決めた扱いを守る。秘密保持の取り決めで、外部のサービスへの入力が制限されている場合があります。契約の内容を確認します。
第8章 手間とコストが減る理由
この構成で手間とコストが減るのは、AI の作業が速いからだけではありません。ひとり社長の仕事の中にある、次の5つの損が減るためです。
8-1 説明のやり直し
指示型の運用では、AI に頼むたびに会社の情報、相手との経緯、自分の好みを説明し直します。専門家や外注先に頼むときも、毎回資料を探して経緯を説明します。
この構成では、会社の情報と判断の基準はルールの文書に、相手との経緯は CRM にあります。AI はそれを読んでから下書きを作るため、社長が説明し直す必要がありません。専門家や外注先への依頼文も、AI が経緯と資料をまとめた状態で届きます。一度直したことはルールに残るため、同じ説明を繰り返さずに済みます。
8-2 二重入力
商談の内容をメモに書き、それを CRM に入れ直す。請求書を作り、その内容を会計ソフトに入れ直す。予定をメールで決めて、カレンダーに入れ直す。ひとり社長の仕事には、同じ情報を何度も入力する場面が多くあります。
この構成では、AI が1つの情報源から読み、必要な SaaS に入力します。商談の文字起こしから議事録を作り、CRM に登録し、宿題をカレンダーに入れる、という流れを AI が行うため、社長が入力し直す作業がなくなります。
8-3 手戻り
依頼の伝え漏れで外注先がやり直す。契約の範囲を確かめずに修正に応じ、あとで費用の交渉になる。見積の前提が議事録と違っていて、出し直す。こうした手戻りは、作業そのものより多くの時間を取ることがあります。
この構成では、依頼文はルールの型に沿って作られ、修正依頼は契約の範囲と照らし合わされ、見積は議事録をもとに作られます。作業の前に必要な確認が入るため、やり直しが起きにくくなります。
8-4 探す時間
過去のメール、前回の見積、契約書の条項、領収書。必要な情報を探す時間は、一回ごとは短くても、毎日何度も発生します。
この構成では、通知に判断の材料が添えて届くため、社長が探しに行く必要がありません。案件の状況を知りたいときも、AI に聞けば 6-7 の3行の形式で返ってきます。情報が SaaS ごとに正本として整理されているため、AI も探しやすくなります。
8-5 抜け漏れによる損失
請求書の出し忘れ、入金の確認漏れ、契約の自動更新、届出の期限切れ、返信の忘れ、大事な相手への連絡の途絶え。抜け漏れは、気づいたときには損失になっています。
この構成では、期限と異常の通知が、社長が覚えていなくても届きます。応答がなければ期限の前に再通知されます。「確認する」という仕事そのものを AI に渡すため、忙しい時期でも確認が止まりません。
第9章 導入の順番
9-1 段階0〜5
この構成は、一度にすべてを組む必要はありません。次の段階で、少しずつ広げます。
| 段階 | 内容 | この段階でできること |
|---|---|---|
| 0 | 頼めば答える AI を使う | ChatGPT、Claude、Gemini などのチャット画面で、文章の下書き、要約、調べものを頼める。指示型の運用 |
| 1 | 自分のルールを1か所に書く | 会社の情報、話し方、やってはいけないことを書いた文書を作り、AI に読ませる。毎回の説明が要らなくなる |
| 2 | メール・カレンダー・ファイル・CRM を AI につなぐ | AI が過去のメール、予定、資料、顧客の記録を読んで答えられる。「(会社名)様との経緯をまとめて」と頼むと、AI が自分で探してまとめる |
| 3 | 朝のまとめを毎日届けさせる | 定期実行の機能で、毎朝、メールの仕分け・今日の予定・期限・返事待ちのまとめが届く。通知型の運用が始まる |
| 4 | 部門ごとに通知を増やす | 第4章の流れを、効果の大きい部門から1つずつ加える。問い合わせ、商談後、請求と入金、契約の期限などが自動で通知される |
| 5 | 新規事業・トレンド調査の自動化 | 第5章の流れを組み、業界の動きがエグゼクティブサマリで届く。深掘り・試す・捨てるの記録が溜まる |
段階4で部門を加える順番は、抜けると損失が大きいもの(経理の入金確認、総務の期限)と、毎日発生するもの(営業の問い合わせと商談後)から始めると、効果を確かめやすくなります。1つの業務から始めて段階的に広げる進め方と、続けるかどうかの判断基準は、中小企業のAI活用支援でも整理しています。
各段階で、次の段階に進む目安は「その段階の仕組みに、毎日迷わず応答できているか」です。通知に応答しきれていない状態で通知を増やすと、第10章で説明する失敗につながります。
9-2 最初にやる3ステップ
今日から始めるなら、次の3つを順に行います。
ステップ1:ルールの文書を作る
ファイル置き場に1つ文書を作り、次の3項目を書きます。
- 会社の情報(事業内容、主なサービス、対象の顧客)
- 話し方(メールの文体、署名、使わない言い回し)
- やってはいけないこと(OK なしに送信・支払い・公開・契約しない、価格や納期を確約しない、顧客情報を外部に出さない)
ステップ2:AI にメールとカレンダーをつなぐ
使っている AI サービスの連携の設定画面から、メールとカレンダーを接続します。Gmail と Googleカレンダーを使っているなら、Claude・ChatGPT・Gemini のいずれにも公式の連携機能があります。Outlook を使っている場合も、AI サービス側の連携機能が用意されているかを確認します。接続したら、「今週の予定と、それに関係するメールをまとめて」と頼み、正しく読めているかを確かめます。
ステップ3:朝のまとめを1つ登録する
AI サービスの定期実行の機能に、次のような指示を毎朝の時刻で登録します。
ルールの文書((文書名))に沿って、次の内容を朝のまとめとしてまとめてください。
1. 昨日から届いたメールのうち、返信や判断が必要なもの(返信が必要なものは下書きも)
2. 今日の予定と、予定ごとに準備しておくこと
3. 7日以内の期限があるもの
4. 3日以上返事がない、こちらから送ったメール
各項目は、結論・理由・おすすめの対応の順に短く書いてください。
メールの送信はしないでください。
1週間ほど使い、届いたまとめに「直して」を返しながら、指示とルールの文書を整えます。ここまでで、段階3に入ったことになります。
第10章 よくある失敗と対策
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 通知が散らばって見なくなる | メール、チャット、AI のアプリなど、通知の届く場所が複数になり、どこを見ればよいか分からなくなる。結局どれも見なくなる | 通知の届く場所を1つに絞る(2-6)。新しい通知を加えるときも、同じ場所に届くよう設定する |
| AI の中だけに情報があり記録が残らない | AI との会話の中で決まったことや、AI が作った議事録が、AI の会話履歴にしか残らない。AI を替えたときや履歴が消えたときに失われる | 実行と記録の場所を SaaS に決める(3-3)。応答の結果は必ず CRM などに書き戻す流れにする |
| 最後の OK まで AI に渡す | 送信・支払い・公開・契約を AI が自動で実行し、誤りがそのまま外に出る | 7-1 の4つの操作は、社長の OK のあとに限る。AI サービスの承認の設定を外さない。支払いと締結は社長自身が画面で行う |
| SaaS を増やしすぎる | 同じ役割の SaaS が複数になり、情報が分かれる。AI がどこを読めばよいか分からず、まとめの精度が下がる。利用料も増える | 役割ごとに1つに絞る(3-5)。四半期ごとに使っていない SaaS を見直す(6-6) |
| ルールを書かず毎回同じ説明をする | AI に頼むたびに会社の情報や好みを説明する。説明を省くと、毎回同じ点を直すことになる | ルールの文書を作る(3-6)。直したことをルールに追加する流れを決める(3-7) |
| 通知が多すぎて応答が追いつかない | 通知が溜まり、未応答が増える。大事な通知が埋もれる | 急ぎ以外は朝のまとめに入れる(2-6)。同じ種類の通知はまとめる(2-7)。四半期ごとに、応答されない通知・毎回やめるになる通知を止める(6-6)。段階を一つずつ進める(9-1) |
第11章 チェックリスト
自分の構成がどこまでできているかを確かめるための項目です。できているものに印を付けてください。
全体の仕組み
- 社長のルールを書いた文書が1つあり、使っているすべての AI がそれを読める
- 一度直したことを、ルールの文書に追加する流れが決まっている
- 通知の届く場所が1つに決まっている
- 朝のまとめが毎日届いている
- 応答の5種類(OK/直して/やめる/あとで/専門家に回す)が決まっていて、どの通知にもその5種類で応答できる
- 期限のある通知に応答がないとき、期限の前に再通知される
- 送信・支払い・公開・契約は、社長の OK のあとにしか実行されない
- AI に渡している権限(閲覧・下書き・実行)を一覧で把握している
- 顧客情報は CRM に集まっている
- AI が実行したことと社長の応答が、SaaS に記録されている
区分別
- ①意思決定:判断が必要な通知に、材料とおすすめが添えて届く
- ②作業:返信、見積、請求書、議事録などの下書きが、頼まなくても届く
- ③目の前の改善:繰り返しの修正や質問から、改善案が届く
- ④新規事業・将来のビジネス:調査テーマが決まっていて、エグゼクティブサマリが定期的に届く。深掘り・試す・捨てるの記録が残っている
- ⑤人との関係:商談の前に相手メモが届く。未返信・約束の期限・しばらく連絡していない大事な相手のアラートが届く
- ⑥管理・確認:入金、期限、未返信の確認を、社長が自分でしなくても、問題があるものだけが通知される
部門別
- マーケティング:記事・SNS のテーマ案と下書きが定期的に届く。数字の変化が通知される
- 営業:問い合わせに下調べと返信の下書きが付いて届く。商談後に議事録とお礼の下書きが届く。止まった商談が通知される
- サービス提供・制作:締め切りが近い案件が通知される。修正依頼が契約の範囲と照らし合わせて届く
- カスタマーサクセス・サポート:利用が減った顧客と、更新の時期が通知される
- 経理・財務:請求書の下書きが請求日の前に届く。未入金が通知される。手元資金の見込みが毎月届く
- 総務・法務:契約書の要点と注意点が届く。契約の更新期限、届出・納付の期限が通知される
- 人事・外注管理:依頼文の下書きと、納品物の照合結果が届く。支払いの予定が通知される
- 経営企画:月の振り返りと、四半期の次の一手の案が届く
定期の見直し
- 毎月、ルールの文書を見直している
- 四半期ごとに、通知の種類と件数、調査テーマ、SaaS と権限を見直している
第12章 よくある質問
何から始めればいい?
第9章の「最初にやる3ステップ」から始めてください。ルールの文書を作る、AI にメールとカレンダーをつなぐ、朝のまとめを1つ登録する、の3つです。この3つで、AI のほうから毎朝通知が届く状態になります。部門ごとの通知は、朝のまとめに慣れてから、1つずつ加えます。
ITが苦手でも組める?
この記事で説明した構成は、AI サービスや SaaS の設定画面で接続し、ルールや指示を文章で書くことで組めます。プログラムを書く必要はありません。接続のときに「どの権限を許可するか」を確認する画面が出るので、その内容を読んで判断することは必要です。分からない場合は、まず「閲覧」の権限だけで接続し、AI がどう動くかを確かめてから広げてください。
情報漏えいは大丈夫?
確認する点は3つです。1つ目は、使う AI サービスが、入力した内容や接続したサービスのデータを学習に使うかどうかです。サービスやプランで違うため、公式ページで確認し、学習に使われない設定やプランを選びます。2つ目は、AI に渡す権限を必要な範囲に絞ることです(7-2)。3つ目は、外部に出す文書に顧客情報が入っていないかを、送信の前に社長が確認することです(7-6)。送信・公開を社長の OK のあとに限っておけば、意図しない情報が外に出ることを防ぎやすくなります。
費用はどれくらい?
かかる費用は、AI サービスの利用料、SaaS の利用料、使う場合は自動化サービスの利用料です。料金はサービスとプランによって違い、改定されることもあるため、各サービスの公式の料金ページで確認してください。SaaS 側の AI 連携が、すでに使っているプランの範囲で追加料金なく使える場合もあります。たとえばマネーフォワード クラウド会計の MCP サーバーは、クラウド会計を利用していれば追加料金なしで使えると案内されています(プランによって対象外の場合があります)。
費用を考えるときは、利用料だけでなく、第8章で説明した説明のやり直し・二重入力・手戻り・探す時間・抜け漏れの損がどれだけ減るかと合わせて判断してください。
社員を雇うのとどう違う?
社員を雇う場合、社員に業務を教え、指示を出し、確認する仕事が社長に発生します。この構成では、ルールの文書に書いた内容をすべての AI が共有し、AI のほうから通知が届くため、指示を出す手間が小さくなります。一方で、AI は人と会うこと、関係をつくること、判断の責任を持つことはできません。⑤人との関係と①意思決定は社長に残ります。人を雇うかどうかを考えるときは、AI に渡せる②作業と⑥管理・確認を先に AI に渡したうえで、それでも足りない部分(人と会う仕事、現場での作業など)があるかで判断すると整理しやすくなります。
AIが間違えたらどうする?
AI は間違えることがあります。そのため、この構成では、送信・支払い・公開・契約を社長の OK のあとに限っています。下書きの段階の間違いは「直して」で直し、繰り返す間違いはルールに追加します。登録の間違いは、SaaS の変更履歴と操作の記録から確認して直します(7-3、7-4)。議事録の「決まったこと」や、契約書の要点、見積の金額など、間違えると影響が大きいところは「人が必ず確認する箇所」として、第4章の各部門で挙げています。
人が増えたらこの構成はどうなる?
人が増えても、3層の構成はそのまま使えます。変わるのは、通知の宛先と、OK を出す人です。たとえば営業の担当者を採用したら、問い合わせと商談後の通知はその担当者に届くようにし、OK を出す権限も担当者に渡します。社長には、金額の大きいものや方針に関わるものだけが届くようにします。ルールの文書と CRM の記録はそのまま引き継げるため、新しく入った人に経緯や基準を説明する手間も小さくなります。人が増える前から、記録を SaaS に残し、ルールを文書にしておくことが、そのまま引き継ぎの準備になります。
まとめ
- ひとり社長が担当するのは、①意思決定、⑤人との関係、④新規事業・将来のビジネスづくりの3つです。②作業と⑥管理・確認、情報の仕分けは AI に渡し、③目の前の改善は AI が案を出して社長が選びます。
- AI のほうから社長に通知が届き、社長は OK/直して/やめる/あとで/専門家に回すの5種類で応答します。送信・支払い・公開・契約は、社長の OK のあとにだけ実行されます。
- 構成は、社長(判断・応答)、AI(SaaS をまたいで読む・選ぶ・まとめる・下書き・入力)、SaaS(情報の正本・実行の場)の3層です。SaaS は AI からつながるかで選び、増やしすぎず、顧客情報は CRM に集め、記録は SaaS に残します。
- 社長のルールを1か所に書き、直したことをそこに追加していけば、どの AI も同じ基準で動き、同じ説明を繰り返さずに済みます。
- 手間とコストが減るのは、説明のやり直し、二重入力、手戻り、探す時間、抜け漏れの損が減るためです。
- 始めるときは、ルールの文書を作る、メールとカレンダーを AI につなぐ、朝のまとめを1つ登録する、の3ステップからです。そこから部門ごとの通知、トレンド調査へと段階的に広げます。