機能 イベント お役立ち お知らせ

人材派遣営業の「モグラ叩き」から抜け出す方法——スタッフフォローと企業提案を一体化させる「ダブルファネル」の実践

人材派遣営業の「モグラ叩き」から抜け出す方法——スタッフフォローと企業提案を一体化させる「ダブルファネル」の実践

「来月で契約を終了したいって言われました」「急に欠員が出たから、今週中に2人お願いできる?」——人材派遣や求人広告のルート営業を担当している方なら、こうした連絡に日々翻弄された経験があるのではないでしょうか。月末が近づくたびにスタッフのケアと企業対応に追われ、気づけば自分の数字を作る時間はどこにも残っていない。まるでモグラ叩きのように、次から次へと飛び出す問題を叩いては、また別の穴から問題が顔を出すという繰り返しに疲弊している営業担当者は少なくありません。

しかし、この状況は営業担当者の能力不足が原因ではありません。問題の本質は、人材ビジネス特有の複雑さを整理するフレームワークを持っていないことにあります。通常のB2B営業であれば顧客という一つの軸を追いかければ済みますが、人材ビジネスは違います。「企業(クライアント)」という顧客と、「スタッフ(求職者)」という商品でありながら意思を持つ存在、この二つの変数を同時に扱わなければならないのです。

本記事では、マーケティングの世界で使われる「ダブルファネル」を人材業界向けに置き直し、新規受注までを担う「パーチェスファネル」と、就業開始後の定着・増員・紹介までを広げる「インフルエンスファネル」をどう接続するかを解説します。スタッフフォローという守りの業務を、企業への提案や既存顧客の拡張につながる攻めの活動と連動させることで、後手対応の日々から戦略的な営業スタイルへと転換するヒントをお伝えできればと思います。


本記事のポイント

  1. 人材派遣・求人広告の営業では、新規企業を受注まで導く「パーチェスファネル」と、配属後の定着・増員・紹介を広げる「インフルエンスファネル」を一体で見ることで、後手対応の悪循環から脱却しやすくなる
  2. スタッフフォローは単なるケアではなく、インフルエンスファネルを前に進め、既存顧客からの追加受注や別部署展開を生む「攻めの情報収集活動」である
  3. 契約終了やスタッフの不満は、適切に扱えば離脱リスクではなく、改善提案・増員提案・配置転換提案につながる起点になる

この記事で扱うテーマ

このページで答える質問

  • 人材派遣営業の「ダブルファネル」とは何?
  • スタッフフォローと企業提案をどう一体化する?
  • 契約終了やスタッフの不満を提案につなげるにはどうする?
  • 人材派遣営業が「モグラ叩き」から抜け出すにはどうする?
人材派遣営業の「モグラ叩き」から抜け出す方法——スタッフフォローと企業提案を一体化させる「ダブルファネル」の実践 の要点を整理した図
ルート営業を「訪問計画 → 接点・関係維持 → 追加提案・受注」の3段階で整理した図。

ファネルとは何か——顧客が購買に至るプロセスを可視化する考え方

まず、ファネルという言葉に馴染みのない方のために、基本的な概念を整理しておきましょう。ファネルは日本語で「漏斗(じょうご)」を意味します。液体を容器に注ぐときに使う、上が広く下が狭くなったあの道具です。マーケティングにおけるファネルは、潜在的な顧客が認知から検討、そして購買へと進む過程を、この漏斗の形になぞらえて図式化したものです。

一般的なマーケティングファネルは、TOFU(Top of Funnel:認知段階)、MOFU(Middle of Funnel:興味・検討段階)、BOFU(Bottom of Funnel:意思決定段階)という三つの層に分けて考えます。TOFUの段階では顧客はまだ課題を明確に認識しておらず、漠然とした関心を持っている程度です。MOFUになると具体的なニーズが生まれ、解決策を比較検討し始めます。そしてBOFUでは、複数の選択肢から最終的な判断を下そうとしている状態です。

このファネルの考え方を営業活動に取り入れることで、「今、この顧客はどの段階にいるのか」を把握し、それに応じた適切なアプローチを設計できるようになります。検討初期の顧客にいきなり見積もりを出しても響きませんし、意思決定直前の顧客に一般的な業界情報を提供しても「そんなことは知っている」と思われてしまいます。顧客の状態を見極めて、必要な情報を必要なタイミングで届けることがファネル思考の本質なのです。


人材業界でのダブルファネル——パーチェスファネルとインフルエンスファネルをつなぐ

さて、ここからが本題です。人材派遣や求人広告の営業においてダブルファネルを語るなら、本来は「新規獲得の前半」と「受注後の拡張」の両方を一体で捉える必要があります。つまり、上半分にあるのはパーチェスファネル、下半分にあるのはインフルエンスファネルです。

パーチェスファネルは、企業が課題を認識し、情報収集し、比較検討を経て、実際に発注や契約に至るまでの流れです。人材営業でいえば、「採用課題はあるが緊急ではない」という状態から始まり、ヒアリング、要件整理、提案、受注、そして初回配属までを含む獲得プロセスと考えると整理しやすいでしょう。

一方のインフルエンスファネルは、契約や配属の後に始まります。就業開始後のオンボーディング、定着支援、現場改善、追加発注、別部署への横展開、紹介や口コミまで、既存取引から影響が広がっていく流れです。人材業界では、スタッフとクライアントの双方の体験品質がこの下半分の強さを決めます。

人材営業が「モグラ叩き」に陥る最大の原因は、くびれの部分である「受注・配属」だけを追いかけ、下半分の設計を後回しにしてしまうことにあります。せっかく受注しても、就業後のフォローが弱ければ早期離職が起き、追加受注も紹介も生まれません。逆に、スタッフフォローから得た現場の声を改善提案に変えられれば、既存顧客からの増員や横展開が自然に起こり、次の受注にも効いてきます。

優秀な人材営業担当者は、スタッフフォローを単なるアフターケアではなく、インフルエンスファネルを前進させる起点として扱います。そして下半分で得た知見を、次の提案や新規開拓の説得材料として上半分へ還流させます。この循環こそが、ダブルファネル管理の真髄なのです。


スタッフフォローを「御用聞き」から「情報収集活動」へ転換する

多くの営業担当者は、スタッフフォローを「悩みを聞いてあげるガス抜きの場」程度に捉えています。もちろん精神的なケアは大切ですが、それだけではビジネス上の価値を十分に引き出せていません。ファネル思考を持つ営業担当者は、定期訪問や面談を「クライアントの潜在課題を発見するためのリサーチ活動」と再定義します。

現場に入り込んでいる派遣スタッフは、実はクライアント企業の誰よりも「現場のリアル」を知っています。「最近、課長がいつもイライラしている」「新しいシステムが入ったけど使いにくくて入力作業が倍になった」「隣の部署で退職者が続いているらしい」——こうした声は、単なる世間話や愚痴ではありません。クライアントへの次の提案につながる貴重な情報資源なのです。

たとえば、スタッフから「最近、入力業務ばかりで残業が増えて辛いです」という相談を受けたとします。通常の対応であれば「大変だね、無理しないでね」と共感して終わりかもしれません。しかしファネル思考を持つ営業担当者は、「どの業務に特に時間がかかっているの?」「他の社員さんも同じような状況なの?」と深掘りします。そこから「現場全体が業務過多に陥っている可能性がある」という仮説が導き出せれば、クライアントに対して「現場の業務フロー改善と、入力専門スタッフの増員」を提案する材料が手に入るわけです。

このように、スタッフの状態を丁寧に把握することで、クライアント側の潜在的な採用ニーズを顕在化させることができます。スタッフフォローは守りの業務ではなく、攻めの提案材料を集めながらインフルエンスファネルを前に進めるための最重要プロセスだという認識を持つことが、ダブルファネル管理の第一歩です。


訪問のたびに「フォロー」と「提案」をセットで行う習慣を作る

スタッフから貴重な情報を収集しても、それをクライアントの担当者に伝えなければ宝の持ち腐れです。とはいえ、「忙しい担当者をつかまえるのが難しい」という声もよく聞きます。そこで推奨したいのが、スタッフ面談とクライアントへの報告・提案を常にワンセットにするという訪問ルーティンの確立です。

スタッフとの面談のために企業を訪問した際、面談が終わったら「少しだけスタッフの状況をご報告してもよろしいですか」と切り出します。この形であれば、担当者も断る理由がありません。ここで単に「元気そうでした」と報告するだけでは二流です。一流の営業担当者は、この短い時間でファネルを動かすトークを展開します。

具体的には、スタッフから聞いた情報を共有しつつ、そこから導き出される仮説と提案をセットで伝えます。「スタッフのAさんは業務には慣れてきましたが、最近は突発的な対応が増えていて本来の業務が進まないことに焦りを感じているようです。現場全体としても稼働時間が先月より増えているようなので、来月の繁忙期に向けて今のうちにアシスタントを一人入れて負荷を分散させませんか」といった形です。

人事や採用担当者は多忙です。現場の課題を薄々感じていても、具体的な対策を考える時間がないことがほとんどです。そこにあなたが「現場の生の声」と「具体的な解決策」をセットで持っていけば、それは営業というよりも担当者の思考を代行するコンサルティングに近い価値提供になります。「君がそう言うなら、現場の課長に話を通しておくよ」という言葉を引き出せれば、あなたのポジションは単なる派遣会社の営業から、組織課題の解決パートナーへと昇格します。この信頼関係こそが、競合他社を寄せ付けない最強の参入障壁となるのです。


パーチェスファネルとインフルエンスファネルを並べて見る——段階別の状態と対応策

ここで、新規企業の受注までを担うパーチェスファネルと、受注後の定着・増員・紹介を担うインフルエンスファネルを、人材営業の現場に置き直して整理してみましょう。

位置ファネル典型状態営業のアクション
上部パーチェスファネル潜在的な採用課題はあるが、まだ緊急度は低い接点づくり、業界情報の提供、課題仮説の提示
中部パーチェスファネル欠員や繁忙化の兆しが見え、比較検討や要件整理が始まるヒアリング、要件定義、人選、提案、受け入れ準備
くびれ契約・初回配属発注、契約、就業開始が決まる期待値調整、オンボーディング設計、初期フォロー
下部インフルエンスファネル定着支援の質によって継続就業と信頼形成が進むスタッフ面談、現場改善提案、早期離職の予兆管理
拡張部インフルエンスファネル増員、別部署展開、紹介、事例化など影響が広がる追加受注、横展開、紹介依頼、成功事例の再利用

この表で重要なのは、スタッフの離職や不満が「下半分だけの問題」ではないということです。インフルエンスファネルが弱い案件は、次の提案時に説得力を失い、パーチェスファネル側の受注効率まで落とします。逆に、既存案件で体験価値を高められている営業は、紹介や実績を武器に上半分の獲得も加速させられます。

パーチェスファネルとインフルエンスファネルを常に並べて眺める習慣をつけることで、「今どこで失速しているのか」「どこから拡張余地が生まれるのか」が見えるようになります。


契約終了を「終わり」ではなく「次の始まり」に変える視点

人材営業にとって最も恐ろしいのは、スタッフの契約終了や突然の退職です。しかし、インフルエンスファネルを適切に管理していれば、これもポジティブな機会に変えることができます。

まず重要なのは、スタッフが「辞めたい」と言い出す前に予兆を察知することです。突発的な事故を除けば、退職の意思が固まるまでには多くの場合、段階的な変化があります。就業から3ヶ月ほど経つと業務に慣れて余裕が出てきます。6ヶ月を過ぎるとルーティンワークに飽きを感じ始め、1年が近づくと「このままでいいのか」と将来を考え始める人が多いものです。

このサイクルをインフルエンスファネル上のマイルストーンとして管理しておけば、問題が起きる前に先回りしたフォローが可能になります。たとえば、就業6ヶ月のタイミングで「そろそろ今の業務に慣れてきた頃だと思います。次はもっと集計業務に挑戦してみたいですか」とキャリアアップの意向を確認する面談を設定するといった具合です。

さらに踏み込んだアプローチとして、現在の派遣先ではこれ以上の成長が見込めないと判断した場合に、あえて他の派遣先への異動を提案するという方法があります。「今の現場ではもう学ぶことは全て吸収しましたね。次はもっと時給の高いプロジェクトに行きませんか」と伝えるわけです。これは自社内でのリテンション施策であり、スタッフにとってはキャリアアップ、自社にとっては単価アップの機会になります。

同時に、元の派遣先に対しては「この方はスキルアップのために卒業しますが、後任として若手のスタッフを連れてきます。マニュアルも整備されているので引き継ぎはスムーズです」と提案します。こうすることで、スタッフは成長実感と待遇向上を得られ、クライアントは業務の属人化解消とコスト調整ができ、自社は2名分の稼働を確保しつつ単価アップも実現できるという「三方よし」の状態を作り出せます。


私がダブルファネル思考で救われた経験

ここからは少し私自身の話をさせてください。以前、人材派遣の営業を担当していた頃、まさにモグラ叩きの日々を送っていた時期がありました。毎月のように欠員が発生し、その補充に奔走しているうちに新規開拓の時間はゼロ。数字は横ばいどころか徐々に下がり、精神的にもかなり追い詰められていました。

転機になったのは、あるベテランの先輩から「お前、スタッフの話をちゃんと聞いてるか?」と言われたことです。当時の私は、スタッフフォローを「問題がないか確認する作業」としか捉えていませんでした。「困っていることはない?」と聞いて「大丈夫です」と返ってくれば、それで終わり。深掘りすることもなければ、そこから提案につなげるという発想もありませんでした。

先輩のアドバイスを受けて、フォローの仕方を変えました。「先月と比べて忙しくなった?」「チームで一番大変そうな人は誰?」「もう一人仲間が増えるなら、どんな仕事を手伝ってほしい?」——こうした質問をするようになってから、スタッフの口から驚くほど多くの情報が出てくるようになりました。そしてその情報を元にクライアントへ提案するようになったところ、「よく現場のことを見てくれているね」と評価され、増員の相談が向こうから来るようになったのです。

もちろん、すべてがうまくいったわけではありません。それでも、「なぜ急に辞めると言い出したのか」「なぜ急に増員の話が来たのか」といった出来事の理由が、ファネルという枠組みで説明できるようになったことで、後手対応ではなく先手を打つ営業ができるようになりました。この経験から、ダブルファネルの考え方は理屈としてだけでなく、実務で本当に役立つものだと確信しています。


ダブルファネルを定着させるための仕組みづくり

最後に、ダブルファネルの考え方を日々の業務に定着させるための具体的な方法をいくつか紹介します。

まず、案件ごとに「上半分」と「下半分」を分けて可視化する仕組みを作りましょう。SFAやCRMを使っていればそこに、なければExcelのスプレッドシートでも構いません。見込み企業にはパーチェスファネルの段階を、稼働案件にはインフルエンスファネルの状態を付与して管理します。たとえば前者は「認知・商談・受注準備」、後者は「初期定着・安定稼働・増員余地あり・離職リスクあり」といったラベルです。営業会議では受注件数だけでなく、「どの案件から追加受注・横展開・紹介が生まれそうか」まで議論するようにします。

次に、スタッフフォロー時のヒアリング項目を見直します。「困っていることはない?」という曖昧な質問では、相手も「特にないです」としか答えようがありません。「先月と比べて業務量は増えた?減った?」「チーム内で誰が一番忙しそう?」「もう一人仲間が増えるならどんな手伝いをしてほしい?」——こうした具体的な質問を用意しておくことで、クライアントの潜在ニーズを探るための情報が自然と集まるようになります。

評価指標の見直しも重要です。新規テレアポ数や飛び込み件数だけを追いかけさせると、営業担当者は既存スタッフのフォローをおろそかにしがちです。「既存顧客からの増員オーダー獲得率」や「スタッフの契約更新率」を評価に組み込むことで、ダブルファネルを回すインセンティブが働くようになります。


よくある質問

ファネルの考え方は人材業界でも本当に使えますか?

人材業界こそファネル思考が活きる領域です。新規獲得のパーチェスファネルと、受注後の定着・増員・紹介を生むインフルエンスファネルをつなげて見る必要があるため、一般的なB2B営業よりも複雑な状況判断が求められます。ファネルという枠組みで整理することで、今どこにリスクがありどこにチャンスがあるのかが明確になり、場当たり的な対応から脱却できます。

スタッフフォローに時間を取られると新規開拓ができなくなりませんか?

むしろ逆です。スタッフフォローを通じてクライアントの潜在ニーズを発掘し、既存顧客からの増員オーダーを獲得できれば、ゼロから関係を構築する新規開拓よりも効率的に数字を積み上げられます。フォローを「守り」ではなく「攻めの情報収集」と位置づけることで、同じ時間の使い方でも成果が大きく変わってきます。

小規模な組織でもダブルファネル管理は実践できますか?

可能です。高価なツールがなくても、Excelやスプレッドシートで見込み案件と稼働案件を並べ、パーチェスファネルとインフルエンスファネルの状態を見える化するだけでも十分に機能します。大切なのはツールではなく、「受注まで」と「受注後」を別物にしない視点を持つことです。その意識があれば、日々のフォローや訪問の質が自然と変わってきます。


まとめ——ファネル思考は「優しさ」と「戦略」の両立である

人材派遣や求人広告の営業は、商品を右から左へ流す仕事ではありません。人の人生と企業の成長という、重みのある二つをつなぎ合わせる仕事です。今回解説したダブルファネルの概念は、一見するとドライで計算高い戦略に見えるかもしれません。しかし、その根底にあるのは「スタッフの小さなSOSを見逃さない」という優しさと、「クライアントの事業課題を本気で解決したい」という情熱です。

スタッフの愚痴をただの愚痴として流すのではなく、彼らがより働きやすい環境を作るための改善提案へと昇華させること。クライアントの突発的なオーダーに振り回されるのではなく、彼らが気づいていない組織の歪みを指摘し、計画的な採用へと導くこと。これこそが、プロフェッショナルな人材営業のあるべき姿ではないでしょうか。

パーチェスファネルで受注までを設計し、インフルエンスファネルで定着・増員・紹介までを伸ばす。その視点で担当エリアを見渡してみてください。そこには、モグラ叩きの日々から抜け出し、あなた自身もスタッフもクライアントも幸せになるためのヒントが無数に隠されているはずです。


関連ページと関連記事

この記事とあわせて、ルート営業・フィールドセールスの基幹記事と周辺記事も確認すると、判断軸と次アクションがつながります。

次の一手を整理したい場合

記事で見えてきた論点を個別に整理したい場合は、お問い合わせページから状況を共有できます。

お問い合わせはこちら

メディア一覧へ戻る