有名ブランド偽物・模倣品の流通実態と商標権侵害リスク、企業が取るべき対策
有名ブランドの偽物・模倣品はインターネットの普及に伴い世界中に蔓延しています。近年では模倣品の流通額が世界貿易額の約3.3%(約55兆円)に達するとの報告もあり、日本国内でも年間3兆円以上もの売上が偽物によって奪われているとされています。
こうした状況は企業のブランド価値や売上を脅かし、法的トラブルにも直結します。企業の経営者やマーケティング・法務・知財担当者にとって、偽物販売の実態と関連する法的リスクを正しく理解し、適切な対策を講じることが重要です。本記事では、有名ブランド偽物(偽造・模倣)品が出回る主なルートと現状、日本の商標制度下での法的リスク、そして企業がとるべきブランド保護策について解説します。
偽物・模倣品が出回る主なルートと実態
日本の税関で押収された有名ブランドの偽造品(一例)。バッグ、腕時計、衣類、自動車ロゴ入りグッズ、電子機器から美容ローラーまで、様々な分野のブランド製品が模倣の対象となっています。税関による知的財産侵害物品の輸入差止件数は2020年に30,305件と過去最多を記録し、そのうち97.8%(29,638件)が商標権を侵害する偽ブランド品でした。こうした偽造品の大半は海外から持ち込まれており、仕出し国別では中国が全体の85.2%を占めています。近年の「海外通販ブーム」に乗って中国から流入するケースが特に増えていることが分かります。
インターネット通販(ECサイト)の拡大やフリマアプリ・ネットオークションなどCtoC取引の普及に伴い、偽物が流通するチャネルは飛躍的に拡大しました。コロナ禍で消費者の購買行動が店舗からオンラインに移行した結果、ネット上でブランド偽物が大量に売買されるようになっています。
昨今の特徴として、組織的な偽物業者が小口取引に分散する傾向が顕著で、1件あたり1~数個程度の少量取引が非常に増えています。一件ごとの取引規模は小さくても、背後では犯罪組織が多層化・分業化し、件数自体が膨大に積み上がることで全体の規模が急拡大しています。このように取引が断片化・匿名化しているため、摘発も難しくなっているのが現状です。
さらに近年ではSNSやライブ配信を悪用した偽物販売も登場しています。例えば2023年には、神戸市の一室を拠点にSNSのライブ配信機能で客を集め、「シャネル」や「ルイ・ヴィトン」など高級ブランドの偽物品(衣類やベルト等)を販売していた外国人グループが摘発されました。警察はアパートから偽ブランド品約400点を押収し、グループの売上は少なくとも3億3千万円に上るとみられています。このように、フリマアプリやECサイトだけでなくSNS上でも偽物が売買されており、企業にとって監視すべき対象は多岐にわたります。
商標権侵害となる行為と適用される法律
有名ブランドの偽物を製造・販売する行為は明確な違法行為であり、商標法をはじめ複数の法律に抵触します。代表的な適用法令と違反行為の例、法定刑は以下の通りです。
商標法違反
登録商標(ブランド名やロゴマーク)を無断で商品に付し販売する行為は商標権侵害となります。法定刑は「10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金」という非常に重い刑罰です。実際、フリマアプリで人気ブランドに似せたロゴ付き商品を販売しただけでも商標法違反容疑で逮捕されるケースがあります。
不正競争防止法違反
周知・著名な他社ブランド製品に酷似した商品を製造・販売したり、他人の商品の形態を模倣した商品を販売したりする行為は不正競争防止法違反となります。商標権の有無に関わらず、他人の商品と混同を生じさせる行為は禁止されており、例えば「ブランド品そっくりのデザインのバッグを作って売る」行為は本法違反です。その法定刑は5年以下の懲役または500万円以下の罰金と定められています。
詐欺罪(刑法)
購入者に対し偽物をあたかも本物であるかのように装い売りつけた場合、刑法上の詐欺罪が成立する可能性があります。詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役のみであり、執行猶予が付かない限り実刑もあり得る重罪です。例えばブランド品の偽物を「正規品です」と偽って販売し、購入者がお得だと信じて代金を支払えば詐欺が成立します(購入者も最初から偽物と承知で買っていた場合は詐欺が成立しません)。
これらの犯罪はいずれも故意に偽物を売った場合は厳しく処罰されます。「知らなかった」では済まされないケースが多く、偽物と認識しながら販売すれば上述のような重い刑罰が科される可能性が高い点に注意が必要です。また少量の取引であっても摘発対象となり得ます。実際に有名ブランドに類似したロゴのバッグをフリマアプリで3点(計7,388円)販売した男性が商標法違反で逮捕され、その男は「1,200個くらい売った」と供述した事例もあります。偽物ビジネスは「バレなければよい」というものではなく、法律上は1個からでも立派な犯罪になり得ることを肝に銘じる必要があります。
最新の規制動向:関税法改正と摘発の強化
インターネット経由で海外から直接偽物を購入できてしまう時代背景を受け、日本でも近年法規制が強化されています。2021年の商標法改正では、海外事業者が日本の消費者に向けて模倣品を郵送などで送り込む行為も商標権侵害に当たることが明確化されました。これを受けて2022年には関税法も改正され、同年10月1日より偽ブランド品は個人による輸入であっても「輸入してはならない貨物」と規定され税関摘発の対象になりました。
つまり、従来は「自分で使うだけだから…」と海外通販サイト等から偽物を取り寄せる行為が黙認されていた面もありましたが、今後は個人輸入であっても偽ブランド品は国内に持ち込めないルールになったのです。実際、税関では輸入時の検査において個人宛ての郵便物であっても積極的に偽物を差し止めています。令和2年(2020年)の税関による知的財産侵害物品の差止件数は前年から26.6%増加し3万件を超えましたが、このような摘発件数の増加傾向に歯止めをかけるべく規制を強化した背景があります。
また、こうした法改正と並行して国内外での摘発事例も増加しています。フリマサイト上で偽物を販売した個人が次々と書類送検・起訴されてニュースになるケースや、前述のSNSを用いた大量販売グループが逮捕されるケースなど、警察・税関ともに取締りを一段と強めています。近年は特に組織的に偽物ビジネスを展開する犯行グループが増えており、捜査当局も国内外の関係機関と連携しながら上流の製造元や流通ネットワークの摘発を目指しています。企業側もこのような最新の規制動向を踏まえ、自社ブランドを守る戦略をアップデートしていく必要があります。
企業がとるべきブランド保護策(模倣品対策)
偽物・模倣品からブランドを守るために、企業は受け身ではなく能動的な対策を講じることが求められます。被害の拡大を放置すれば、自社が得られるはずだった正規品の利益を奪われるだけでなく、粗悪な偽物によって消費者からの信用も失いかねません。ここでは、企業が取るべき主な模倣品対策をまとめます。
知的財産権の整備と水際対策
自社ブランドの商標権や意匠権を国内外で適切に取得・維持し、権利侵害に対抗できる法的基盤を整備します。また税関への輸入差止申立て制度(税関に自社商標や意匠を登録し、侵害品発見時に差し止めてもらう措置)を活用し、偽物を可能な限り入国時点で押さえることが重要です。海外の模倣品工場に対しては現地法に基づく摘発や訴訟を働きかけるため、必要に応じて海外の法律事務所や調査会社とも連携します。
オンライン市場の監視と早期発見
ECサイトやフリマアプリ、SNS上で自社ブランドの偽物が出回っていないか継続的に監視します。専任のスタッフや専門業者を起用し、ネット上の出品を巡回・チェックする体制を整えましょう。近年ではAIを活用したクローリングによる自動検知ツールも登場しており、発見次第、サイト運営者への通報や削除要請を迅速に行うことが肝要です。特にCtoCプラットフォームでは偽物出品者のアカウント停止措置なども並行して依頼し、再出品の芽を摘むよう努めます。
法的措置と「ゼロトレランス」方針
模倣品業者に対しては断固たる態度で臨みましょう。企業内で偽物対応ポリシーを明文化し、少しでも怪しい侵害行為を発見したら見逃さず徹底追及する姿勢(ゼロトレランス)を示すことが重要です。例えば偽物が1点見つかった場合でも、その背後にある流通ルートや製造元まで調査会社を使って追跡し、必要に応じて差止め請求や損害賠償請求、刑事告訴などあらゆる法的措置を講じます。実際に欧米の有名ブランドでは探偵会社と契約して流通網を徹底的に洗い出し、関係先への警告や当局と連携した摘発を継続的に実施する例もあります。その結果偽物業者に法的リスクとコストを自覚させ、模倣品ビジネス自体を割に合わないものにする効果が期待できます。
製品への多層的な偽造防止策
自社製品そのものにも偽造防止技術を取り入れ、偽物と判別しやすくしておくことも有効です。ホログラムシールやQRコード、特殊インク、専用アプリによる真贋判定などを組み合わせて製品ごとに複数配置し、偽物業者にとって模倣が非常に手間とコストのかかるものにします。例えばあるメーカーでは1つの商品に5~6個の認証ホログラムやQRコードを貼付し、正規品であることを確認できる情報を多層的に提供しています。これにより、偽物側が完全にコピーすることを困難にし、万一コピーされても見破りやすくなります。ただし、防止策そのものが模倣されてしまうリスクもあるため定期的な更新と工夫が必要です。
おわりに
以上のような対策を講じることで、企業は自社ブランドを模倣品被害から守ることができます。しかし、模倣品との戦いは一度施策を打てば終わりというものではありません。ブランドを守り続けるためには継続的な監視・対応が不可欠であり、経営課題の一つとして長期的に取り組む必要があります。
幸い、近年は模倣品対策を専門とするサービス市場も拡大しており、先進企業はそれらを積極的に活用して成果を上げています。実際にパナソニック株式会社は「模倣品を排除することは企業の責務である」と表明し、社内外で積極的な取組みを行っています。
自社のブランドが培ってきた信頼を守り抜くため、模倣品問題から目をそらさず、本気で対策に取り組む姿勢こそが求められます。模倣品撲滅に向けて粘り強く対策を講じる企業こそが、長期的に見て消費者から選ばれ続けるブランドであり続けると言えるでしょう。