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「さらばSalesforce」──Klarnaが示した”入力地獄”からの解放と、AI時代の本当の働き方改革

Klarnaは生成AIの導入により「フルタイム700人分」の業務を代替し、SalesforceとWorkdayの解約を決断した。その背景には、CRMへのデータ入力が「管理職のための監視ツール」と化し、現場の生産性を奪っていたという構造的問題がある。AI時代の真の働き方改革とは、新しいツールを導入することではなく、「入力という名の無賃労働」を撲滅し、人間を管理コストから解放することにある。

「また商談後の入力作業か…」。そう心の中でため息をついたことのある営業パーソンは、決して少なくないはずだ。2025年、フィンテック大手のKlarna(クラーナ)がSalesforceとの契約を完全に打ち切ったというニュースが、ビジネス界に衝撃を与えている。この決断は、単なるコスト削減の話ではない。世界中の現場スタッフが長年、密かに、しかし激しく抱いてきた「入力作業という名の地獄」からの解放宣言でもある。数千億円規模の時価総額を持つSaaSの巨人を「捨てた」Klarnaの決断から、私たちは何を学ぶべきなのか。現場目線で紐解いていきたい。


入力地獄の実態──営業現場が抱える構造的矛盾

営業職や人事職として働いたことのある人なら、一度はこう思ったことがあるのではないだろうか。「顧客と話している時間より、システムの項目を埋めている時間のほうが長くないか?」

商談が終わり、疲弊してオフィスに戻った後に待っているのは、数十項目に及ぶ入力作業だ。商談フェーズの更新、ネクストアクションの記録、予算感や決裁ルート、競合情報のメモ、そしてマネージャーへの報告用コメント。これらはすべて「管理のため」の作業であり、目の前の顧客を幸せにする作業ではない。

ベルフェイス社が従業員1000人以上の大手企業を対象に実施した調査によれば、Salesforceへの入力状況について「おおむね入力されているが多少の漏れがある」と回答した企業が60.4%を占め、「ほぼ漏れなく入力されている」と答えた企業はわずか23.4%にとどまった。つまり、7割以上の企業で入力漏れが常態化しているのが実態だ。

入力漏れの主な理由としては、「入力が面倒だから」が最も多く72.6%、次いで「営業活動の時間が削られるから」が39.3%、「入力してもメリットを感じないから」が38.1%と続く。さらに衝撃的なのは、約9割の営業責任者が「Salesforce入力等の事務作業が原因で、営業メンバーの新規商談創出や提案活動が滞っている」と実感しているという点だ。

別の調査では、営業担当者がSFA入力に費やす時間は1日平均45分、月間では約15時間にも及ぶことが報告されている。年間に換算すれば、実に180時間。これは約22営業日分、つまり1カ月以上の労働時間を「入力作業」だけに費やしている計算になる。


CRM・SFAは誰のためのツールなのか

この問題の本質は、CRMやSFAがマネジメント層と営業担当者の利害が相反するサービスになってしまっているという点にある。マネジメント層にとっては、営業状況を把握するために記録が不可欠だ。しかし営業担当者にとっては、入力しても自分の成果に直結するわけではなく、むしろ貴重な時間を奪われるだけ。「できれば入力を避けたい」というのが正直なところだろう。

さらに皮肉なことに、上司は「Salesforceに入力しろ」と言いながら、翌日には「デスクワークをしている暇があるなら顧客に会いに行け」と言う。この相反する指示の中で、現場も管理職も大きなストレスを抱えている。営業チームの管理業務において最も負担に感じるのは「Salesforce入力の確認・督促」という調査結果もあり、その割合は65.8%に達する。マネジメント層の約7割が週1回以上の頻度で部下に入力を促しているというのだから、双方にとって不毛な時間が費やされていることがわかる。

そして最も深刻なのは、苦労して入力されたデータの質にも問題があることだ。項目の多くが未入力のままだったり、自由記入欄に日報のような感想が書かれているだけだったりするケースは珍しくない。見込み度の評価基準は営業担当者ごとにバラバラで、情報の一貫性が保たれていない。結果として、マネージャーは営業担当者を集めて口頭で進捗を確認せざるを得なくなり、入力作業に費やした時間が結局は無駄になってしまう。

これでは本末転倒としか言いようがない。


Klarnaが仕掛けた「入力不要」の革命

こうした構造的な問題に対して、Klarnaは根本的な解決策を打ち出した。Salesforceに代わる「新しい箱」を作ることではなく、「人間が意識して入力しなくても業務が回る仕組み」の構築だ。

KlarnaはOpenAIの技術を駆使し、自社専用のシステムを構築した。生成AIを活用すれば、Zoom会議の録音やメールのやり取りから必要な情報を自動で抽出できる。従来であれば営業担当者がキーボードを叩いて埋めていた「BANT(予算・権限・必要性・時期)」などの項目を、AIが会話の裏側で勝手に構造化データとして整理してくれるのだ。

「Salesforceは多機能すぎて、我々の業務には80%の不要な機能があった。それなら、自社のフローに100%最適化した軽量なツールをAIで作ればいい」。この発想こそが、巨大SaaSへの依存を断ち切る鍵となった。

実際にKlarnaのAIアシスタントは、導入からわずか1カ月で全カスタマーサービスチャットの3分の2にあたる230万件の会話を処理した。これはフルタイム従業員700人分の業務量に相当し、対応時間は従来の11分から2分未満へと大幅に短縮された。この成功体験が、SalesforceやWorkdayといった巨大SaaSの解約という大胆な決断を後押ししたことは間違いない。


従来のCRM運用とAI活用型アプローチの比較

ここで、従来のCRM運用とAIを活用した新しいアプローチの違いを整理しておこう。

項目従来のCRM運用AI活用型アプローチ
データ入力方法営業担当者が手動で項目を埋めるAIが会話・メールから自動抽出
入力にかかる時間1日平均45分(月15時間)商談終了後数分で完了
データの質入力者の主観・記憶に依存、バラつき大AIがフラットに構造化、一貫性あり
入力漏れ率約75%の企業で常態化ほぼゼロに近い
営業担当者の心理「面倒」「時間の無駄」入力作業から解放、顧客対応に集中
マネージャーの負担入力督促が最大の業務負担データ活用・戦略立案に集中可能
本来の活動時間入力作業に圧迫される顧客との対話や提案に充当可能

この表を見れば明らかなように、AI活用型アプローチは単なる効率化にとどまらず、営業組織全体の生産性とデータ品質を同時に向上させる可能性を持っている。


「管理のための管理」を捨てる勇気

それでは、なぜ多くの企業が現場の不満を知りながらSalesforceを使い続けるのか。大きな理由のひとつは「データが蓄積されているから」という恐怖心、いわゆるロックイン効果だ。長年かけて蓄積した顧客データや商談履歴を捨てることへの心理的抵抗は、想像以上に大きい。

しかし、冷静に考えてみてほしい。その「蓄積されたデータ」の多くは、入力者の主観や入力漏れが混じった、ノイズの多いデータではないだろうか。評価基準は人によってバラバラ、自由記入欄には形式的な文章が並び、本当に知りたい情報は結局口頭で確認しなければならない。そんなデータベースに、どれほどの価値があるのだろうか。

Klarnaはこの点について明確な見解を示している。「AIがあれば、標準化されていない膨大なログからでも、必要な洞察をリアルタイムで引き出せる」というのだ。人間が必死に「構造化」しなくても、AIという超高性能な通訳がいれば、散らばったメモや録音データがそのまま「生きたデータベース」になる。発想の転換と言うべきだろう。


Workdayも解約──ターゲットは全バックオフィスへ

Klarnaの矛先はSalesforceだけにとどまらない。人事管理システムの巨頭であるWorkdayも解約すると明言している。

人事の手続きもまた、入力地獄の温床だった。休暇申請の入力、経費精算の紐付け、評価シートの記入。これらも今後は、AIエージェントとのチャットひとつで完結するか、あるいは行動履歴からAIが「この日は出張だったから、この領収書は宿泊費ですね」と自動処理する世界へと移行していく。

「従業員1人につき月額○ドル」というシートライセンスモデルは、「人間がツールに張り付いて作業すること」を前提とした古いビジネスモデルだ。AIが人間を介さずに処理を完結させる世界では、この課金体系そのものが不合理なものとして崩壊し始めている。Klarnaはその最前線に立っている。


私が現場で見てきた「入力疲れ」のリアル

ここで、筆者自身の経験と所感を述べさせてほしい。

私はこれまで複数の企業でCRM導入プロジェクトに関わってきたが、どの現場でも「入力疲れ」は共通の課題だった。導入当初は「これで営業の可視化ができる」と期待に胸を膨らませるマネージャー陣。しかし半年も経つと、入力率は徐々に低下し、データの鮮度は落ち、結局は週次ミーティングで口頭報告を求めるという従来のスタイルに逆戻りしてしまう。

ある製造業の営業部門では、Salesforceの入力項目が100を超えていた。商談フェーズ、競合情報、決裁者情報、予算、導入時期、技術要件、過去の接触履歴、添付資料…。これだけの項目を毎回埋めるのは、現実的に無理がある。現場の営業担当者は「入力することが仕事になっている」と嘆いていた。

一方で、最近関わったスタートアップでは、最初からSalesforceを使わない選択をしていた。NotionとAirtable、そしてChatGPTを組み合わせて、CRM的な機能を自前で構築している。商談の議事録はAIが自動生成し、重要な項目だけを人間がレビューする仕組みだ。「大企業が何年もかけて作り上げたCRMの機能の半分くらいは、もう2週間で作れる」と、その会社のエンジニアは語っていた。

これはKlarnaだけの話ではない。AI時代の到来により、「大は小を兼ねる」という常識は崩れつつある。


入力地獄から卒業するための三つのステップ

Klarnaの事例から学べることは多いが、すべての企業がいきなりSalesforceを解約できるわけではない。現実的なステップとして、以下の三つを提案したい。

まず第一に、「その入力、本当に誰かが見ているか?」を疑うことだ。管理職の安心感のためだけに現場に強いている入力項目を洗い出し、今すぐ半分に減らすことを検討してほしい。入力項目が多ければ多いほど、データの質は下がるという逆説を忘れてはならない。

第二に、SaaSを「記録場所」ではなく「APIの塊」と捉え直すことだ。SalesforceのUIを直接使うのをやめ、AI経由でデータを連携する仕組みを検討する。すでに日本でも、商談の会話からAIが情報を自動抽出してSalesforceに入力するサービスが登場している。ある投資用不動産販売会社では、このアプローチにより営業1人あたりの入力時間を月15時間から3時間へ、約80%削減したという事例がある。

第三に、「自社専用AI」の構築を視野に入れることだ。汎用的なSaaSに自社の業務を合わせるのではなく、自社の業務にAIを合わせる「内製化」のコストは、1年前と比べて劇的に下がっている。特にCRMや人事管理のような定型業務は、AIによる代替効果が出やすい領域だ。


FAQ:よくある質問と回答

Klarnaは本当にSalesforceを完全に解約したのか?

報道によれば、KlarnaはSalesforceを2024年8月末に社内でシャットダウンし、Workdayも数週間以内に停止する計画を発表している。完全な内製システムへの移行は段階的に進められているが、主要なSaaSからの脱却という方向性は明確だ。

入力をAI化しても、データの正確性は保てるのか?

むしろ向上するケースが多い。人間の記憶に頼った入力では、時間が経つほど情報が曖昧になる。AIが商談中にリアルタイムで情報を抽出する方式であれば、鮮度と正確性の両方が担保される。また、AIはフラットな立場で情報を抽出するため、担当者の主観や「盛り」が入りにくいというメリットもある。

中小企業でもAI活用による入力自動化は現実的か?

十分に現実的だ。現在では月額数万円から利用できるAI入力支援サービスが複数登場している。また、Notion AIやChatGPTを活用した簡易的な仕組みであれば、エンジニアがいなくても構築可能だ。まずは一部の業務から試験的に導入し、効果を確認しながら拡大していくアプローチが推奨される。

Salesforceを使い続けることは間違いなのか?

一概にそうとは言えない。Salesforceは依然として強力なプラットフォームであり、特にエンタープライズ規模の複雑な業務プロセスを管理するには有効だ。重要なのは「人間が入力する」という前提を見直すことであり、AIを組み合わせてSalesforceを活用する道も十分にある。問題はツールそのものではなく、「入力を人間に強いる運用」にある。


最強の働き方改革は「ツールの廃止」にある

「新しいツールを導入して、もっと便利にしよう」。これまでのDXは、常に足し算の発想だった。しかしKlarnaが示したのは、AIを武器にした「引き算のDX」だ。

現場を苦しめてきた「入力」という名の無賃労働を撲滅すること。それこそが、AI時代における最強のモチベーション向上策であり、競争力の源泉になる。ベルフェイスの調査によれば、Salesforceへの入力業務が自動化された場合、9割以上の企業が「売り上げが増加する」と回答している。入力時間の削減だけでなく、商談の質の向上、受注率の改善、データ品質の向上といった複合的な効果が期待されているのだ。

ある大手ITソリューションベンダーでは、AI入力支援ツールの導入により商談中のメモ作業を廃止し、顧客との対話に集中できる環境を整えた結果、受注率が140%向上したという。これは「入力をなくすこと」の効果を端的に示す事例だろう。

「さらばSalesforce」という言葉が、あなたの現場でも歓喜の声として響く日は、そう遠くないかもしれない。その第一歩は、「本当にこの入力は必要なのか?」と問い直すことから始まる。

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