「ファネルはもう古い」は本当か?焼き畑営業から脱却するフライホイール戦略の真実 – ファネルAi
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「ファネルはもう古い」は本当か?焼き畑営業から脱却するフライホイール戦略の真実

結論として、「ファネルを捨ててフライホイールに移行する」という単純な話ではありません。 従来のファネルは新規顧客獲得において依然として有効ですが、「売って終わり」の発想では成長に限界があります。重要なのは、獲得(ファネル)と維持・拡大(フライホイール)を融合させた「ダブルファネル」の視点を持つことです。顧客をゴールではなく、ビジネスを回転させる動力源として捉え直すことで、広告費に依存しない持続的な成長が実現できます。

マーケティングや営業の世界に身を置いていると、「ファネルはもう古い」「これからはフライホイールの時代だ」という声を耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。特にSaaS業界やBtoBマーケティングに携わる方であれば、この議論を避けて通ることはできません。

私自身、長年マーケティングの現場で仕事をしてきましたが、正直に言えば、最初にこの言葉を聞いたときは「また新しいバズワードか」と冷ややかな目で見ていました。しかし、実際に自社の営業プロセスを見直し、顧客との関係性を再考してみると、この概念には無視できない本質が含まれていることに気づかされたのです。

この記事では、なぜ従来のファネルモデルが限界を迎えつつあるのか、そしてフライホイールという考え方が私たちのビジネスにどのような変革をもたらすのかについて、できるだけ具体的にお伝えしていきます。


なぜ「ファネルは古い」と言われるようになったのか

マーケティングファネルという概念は、100年以上前から存在する由緒正しいフレームワークです。認知、興味、欲求、行動という流れで顧客を導いていくこの考え方は、長らくマーケティングの基本中の基本として教科書に載り続けてきました。

では、なぜ今になって「古い」と言われるようになったのでしょうか。

その答えを一言で言えば、「顧客がゴールになってしまっている構造そのもの」に問題があるからです。

従来のファネルを図にすると、逆三角形の一番下に「購入」や「受注」が位置しています。つまり、このモデルに従って営業活動を行うと、契約書にサインをもらった瞬間にプロセスが完了してしまうのです。営業担当者は月次の受注目標を追いかけ、ハンコをもらった途端にその顧客への関心を失い、また次の新規顧客を求めて奔走する。この繰り返しは、まさに「焼き畑農業」のような状態と言わざるを得ません。

私がかつて在籍していた会社でも、この傾向は顕著でした。トップセールスと呼ばれる人たちは、確かに新規受注の数字は素晴らしいものがありました。しかし、彼らが獲得した顧客の解約率を調べてみると、実は社内平均よりも高かったのです。「売ること」に特化するあまり、顧客の本当のニーズとのミスマッチが起きていたわけです。


新規獲得コストの高騰という現実

「焼き畑営業」がかつて許容されていたのには理由があります。市場が成長期にあり、競合も少なく、顧客の選択肢が限られていた時代には、新規顧客を獲得するコストは相対的に低く抑えられていました。多少の解約があっても、それを上回るペースで新規を取れていれば、数字上は成長を続けることができたのです。

しかし、現在の市場環境は大きく変わっています。

まず、ほとんどの業界で競合製品が溢れています。顧客は選び放題の状態であり、わずかな不満があれば簡単に乗り換えてしまいます。さらに、インターネットの普及により顧客の情報リテラシーは飛躍的に向上しました。営業担当が「弊社の製品は業界No.1です」と言っても、顧客はその場でスマートフォンを取り出し、比較サイトやレビューを確認します。

こうした環境の中で、新規顧客を1件獲得するためのコスト(CAC:Customer Acquisition Cost)は年々高騰し続けています。デジタル広告の入札単価は上がり、展示会への出展費用も増加傾向にあります。にもかかわらず、獲得した顧客が短期間で離脱してしまえば、投資を回収する前に赤字が確定します。

これはまさに「穴の空いたバケツに水を注ぎ続ける」状態です。どれだけマーケティング予算を増やしても、根本的な解決にはなりません。


フライホイールとは何か——物理学から学ぶビジネスの原理

ファネルの限界が意識されるようになる中で、代替として注目を集めているのが「フライホイール(弾み車)」という概念です。この考え方は、特にHubSpot社によって広められ、BtoBマーケティングの世界で急速に浸透しました。

フライホイールとは、もともと物理学やエンジニアリングの用語です。エンジンの回転を安定させるために使われる、重たい円盤のことを指します。この円盤には面白い特性があります。最初に回転させるには大きな力が必要ですが、一度勢いよく回り始めると、その慣性によって少ないエネルギーでも回転を維持できるようになるのです。さらに、回転速度が上がれば上がるほど、同じ力を加えたときの加速度は大きくなります。

この物理法則をビジネスに応用したのが、フライホイール戦略です。

ビジネスにおけるフライホイールでは、顧客を円盤の「中心」に置きます。従来のファネルでは「出口」だった既存顧客が、このモデルでは「回転を加速させるエネルギー源」として位置づけられるのです。満足した顧客は口コミで良い評判を広げ、知人や同僚を紹介し、追加のサービスを購入し、やがて新たな顧客を連れてきてくれます。

HubSpot社が提唱するフライホイールの三要素は以下の通りです。

要素意味具体的なアクション例
Attract(惹きつける)価値あるコンテンツで見込み客を引き寄せるブログ、SNS、SEO、ウェビナー
Engage(信頼関係を築く)顧客のペースに合わせた関係構築パーソナライズされた提案、適切なタイミングでのフォロー
Delight(満足させる)期待を超える体験を提供する手厚いサポート、成功事例の共有、コミュニティ運営

このサイクルを継続的に回すことで、大きな広告費をかけなくても、ビジネスが自律的に成長していく状態を作り出せます。これがフライホイール戦略の本質です。


回転を止める「摩擦」の正体

フライホイールを理解する上で、もう一つ重要な概念があります。それが「摩擦(フリクション)」です。

物理学において、回転する円盤の速度を落とすのは摩擦です。同様に、ビジネスにおいても顧客体験を損なう要因はすべて「摩擦」として作用し、フライホイールの回転を鈍らせます。

具体的にどのようなものが摩擦になるのか、いくつか例を挙げてみましょう。

まず、使いにくい製品UIは典型的な摩擦です。どれだけ機能が充実していても、顧客が直感的に操作できなければストレスが蓄積します。次に、サポート対応の質も大きな影響を与えます。問い合わせをしたら部署間をたらい回しにされ、何度も同じ説明を求められる——こうした経験は、顧客の信頼を一気に失墜させます。

また、社内の連携不足も見逃せません。営業担当が提案した内容と、カスタマーサクセス担当が説明する内容に食い違いがあると、顧客は「この会社は大丈夫だろうか」と不安を感じます。契約前と契約後で態度が変わる企業に対して、顧客が良い印象を持つはずがありません。

ここで重要なのは、摩擦を減らす取り組みは営業部門だけでは完結しないということです。製品開発、カスタマーサポート、カスタマーサクセス、そして経営層まで含めた全社的な意識改革が必要になります。フライホイールが単なるマーケティング手法ではなく、組織全体の変革を伴う「戦略」と呼ばれる所以はここにあります。


「ファネルを捨てる」という誤解——二項対立の罠

ここまで読んでいただいた方の中には、「なるほど、これからはファネルを捨ててフライホイールに移行すればいいのか」と思われた方もいるかもしれません。

しかし、それは大きな誤解です。

どれだけ既存顧客の維持が重要だとしても、そもそも最初の顧客がいなければ車輪は回り始めません。認知を獲得し、興味を持ってもらい、比較検討を経て選んでもらうという一連のプロセス——つまりファネル的な動き——は依然として必要なのです。

「ファネルか、フライホイールか」という二項対立で捉えること自体が間違いです。重要なのは、新規獲得のプロセス(ファネル)と、維持・拡大のプロセス(フライホイール)を分断させずに融合させることです。

この発想を具現化したモデルが「ダブルファネル」あるいは「ボウタイファネル」と呼ばれるフレームワークです。


ダブルファネルという現実解——砂時計型のビジネスモデル

ダブルファネルとは、従来の漏斗(じょうご)の下に、もう一つの漏斗を逆向きにくっつけた形をしています。視覚的には砂時計、あるいは蝶ネクタイ(ボウタイ)のような形をイメージしてください。

ファネルの位置名称フェーズ目的
上半分アクイジションファネル認知 → リード → 商談 → 受注新規顧客の獲得
中央(くびれ)購入・契約顧客化のポイント
下半分リテンションファネルオンボーディング → 継続 → 紹介・アップセル顧客生涯価値の最大化

このモデルの核心は、「受注」がゴールではなく、上下をつなぐ「通過点」に過ぎないという点です。

上半分のファネルから入ってきた顧客を、下半分の広がり(ファン化、LTV最大化)へとスムーズに流し込む。そして、下半分で生まれたエネルギー——口コミ、紹介、事例化——を、再び上半分の集客へと還流させる。この循環構造こそが、現代のビジネスに求められている運用設計なのです。


筆者の実体験から——ダブルファネルで変わった営業組織

ここで少し、私自身の経験をお話しさせてください。

数年前、私はあるBtoB企業のマーケティング部門で働いていました。当時の組織は典型的なファネル思考で動いており、マーケティングチームは「リード数」、インサイドセールスは「商談化率」、フィールドセールスは「受注数」をそれぞれ追いかけていました。各部門がそれぞれの数字を最大化しようとするため、顧客視点での一貫性は失われ、結果として解約率は高止まりしていました。

転機となったのは、カスタマーサクセス部門からの提案でした。「受注後の顧客データをマーケティングにフィードバックしてはどうか」という単純な提案です。

最初は半信半疑でしたが、実際にやってみると驚くべき発見がありました。長期継続している顧客と、早期解約する顧客の間には、リード段階での明確な違いがあったのです。簡単に言えば、「すぐに導入したい」というホットなリードほど、実は解約率が高かった。一方で、時間をかけて比較検討し、導入目的を明確にしてから契約した顧客は、長期にわたって利用を続け、追加サービスも購入してくれていました。

この発見を基に、私たちはリードの評価基準を見直しました。単純な「熱量」ではなく、「自社サービスとのフィット度」を重視するようになったのです。短期的にはリード数と受注数が減少しましたが、半年後には解約率が改善し、1年後にはLTVベースでの収益が以前を上回りました。

これはまさに、ダブルファネルの発想を実践した結果でした。上半分(獲得)と下半分(維持)を分断させず、データと知見を循環させることで、組織全体の生産性が向上したのです。


具体的な実装のポイント——明日から始められること

概念を理解することと、それを実務に落とし込むことは別の話です。多くの企業が「ダブルファネル」や「フライホイール」の考え方を学んでも、結局は従来のやり方に戻ってしまうのは、具体的な実装方法がわからないからです。

ここでは、明日から着手できる具体的なアクションをいくつか紹介します。

まず、「顧客の成功」を定義することから始めてください。あなたの会社のサービスを使って、顧客は何を達成したいのか。その達成状態を明確に言語化し、社内で共有します。この「顧客の成功」が、すべての部門の共通言語になります。

次に、データの流れを見直します。多くの企業では、マーケティングから営業への情報連携は整備されていても、カスタマーサクセスからマーケティングへのフィードバックループは存在しません。どのような顧客が長期継続しているのか、どのような導入理由の顧客が成果を出しているのか——こうした情報を上流工程に還流させる仕組みを作ります。

そして、KPIの見直しも不可欠です。各部門が自部門の数字だけを追いかけている状態では、全体最適は実現しません。最終的に追うべきは「顧客生涯価値(LTV)」であり、各部門のKPIはLTV向上に貢献しているかどうかで評価されるべきです。


よくある質問(FAQ)

Q1: 小規模な会社でもフライホイール戦略は有効ですか?

むしろ小規模な会社にこそ有効です。大企業のように潤沢なマーケティング予算がない場合、既存顧客からの紹介や口コミは非常に強力な集客チャネルになります。一人ひとりの顧客との関係を丁寧に構築できるのは、小規模組織の強みです。

Q2: BtoC企業にも適用できますか?

適用可能です。特にサブスクリプション型のサービスや、リピート購入が見込める商材では、フライホイールの考え方は非常に有効です。ECサイトであれば、リピーターの購買データを分析し、新規顧客獲得の施策にフィードバックするといった応用が考えられます。

Q3: フライホイール戦略の効果が出るまでどのくらいかかりますか?

短期的な効果を期待すると失敗します。フライホイールは「慣性」で回る仕組みなので、最初の回転を始めるには相応の時間と労力が必要です。一般的には、本格的な効果を実感できるまでに6ヶ月から1年程度を見込んでおくべきでしょう。

Q4: 既存のCRMやMAツールはそのまま使えますか?

多くの場合、そのまま使えます。フライホイール戦略はツールの問題ではなく、考え方と運用の問題です。ただし、顧客データを部門間で共有しやすい仕組みになっているか、カスタマーサクセスの活動もトラッキングできているかは確認が必要です。

Q5: 営業担当者の評価制度はどう変えるべきですか?

受注数や受注金額だけでなく、「獲得した顧客の継続率」や「アップセル率」も評価指標に含めることを検討してください。これにより、営業担当者が「売りやすい顧客」ではなく「成功しそうな顧客」を選ぶインセンティブが生まれます。


まとめ——循環する成長の仕組みを作る

「ファネルはもう古い」という言葉は、半分正しく、半分間違っています。

正しいのは、「売って終わり」の直線的なモデルでは、もはや持続的な成長は難しいという点です。新規獲得コストは高騰し続け、競合は増え続け、顧客の期待値は上がり続けています。この環境で、焼き畑農業的な営業を続けることは、自らの首を絞める行為に等しいでしょう。

間違っているのは、「ファネルを捨てればいい」という短絡的な解釈です。新規顧客を獲得するプロセスは依然として必要であり、ファネル的な考え方が完全に無効になったわけではありません。

私たちが目指すべきは、獲得と維持を分断させず、循環させる仕組みを作ることです。新規顧客がファン化し、そのファンが次の新規顧客を連れてくる。この好循環を生み出すことができれば、ビジネスは広告費に依存せず、自律的に成長していくことができます。

それは一朝一夕で実現できるものではありません。組織全体の意識改革、データ基盤の整備、評価制度の見直しなど、多くの課題を乗り越える必要があります。しかし、その先にある「回り続けるビジネス」の姿を想像すれば、取り組む価値は十分にあるはずです。

まずは、自社の顧客データを見直すところから始めてみてください。長期継続している顧客には、どのような共通点があるのか。その発見が、フライホイールを回し始める最初の一押しになるかもしれません。

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