「案件管理だけ」を先に整える。カンバンを止めずにデータを強くする方法
顧客管理の整備は、顧客マスタからではなく「案件だけ」を整えるのが最短ルートです。 案件ボードの見た目や列の並びは崩さず、裏側のデータ構造だけを整流することで、現場を止めずに「壊れにくい案件管理」へ移行できます。本記事では、案件ID・担当者・次アクション・期限といった最小カラムの設計と、入力元を絞り集計を同ファイル内で完結させる運用手順を解説。顧客マスタや活動履歴の整備は、案件が整ってからで十分間に合います。
「顧客マスタがぐちゃぐちゃ」「活動履歴が残らない」「名寄せが大変」——営業やCSの現場で、こんな悩みを抱えていない会社のほうが珍しいかもしれません。
ただ、これらを正面から片付けようとすると、高確率で炎上します。なぜなら、現場が毎日見ている案件ボード(案件表、カンバン、ステータス管理表など)が止まった瞬間、売上も止まるからです。営業の手が止まれば、数字が止まる。当たり前のことですが、システム改善の話になると、なぜかこの前提が忘れられがちです。
だから、最初は割り切ったほうがうまくいきます。顧客管理の”完全版”は後回し。まずは”案件だけ”整える。 運用中のボードの見た目や列の並びは崩さず、裏側のデータ構造だけを整流して「壊れにくい案件管理」に変えていく。この進め方が、結局のところ最短ルートになることが多いのです。
この記事では、Googleスプレッドシートや既存の案件ボードを温存しながら、最小限の手数で整流する具体的な手順をまとめます。
なぜ「案件だけ整える」が最短ルートなのか
案件というのは、営業、CS、請求といった複数の業務が全部ぶつかる”交差点”のような存在です。だからこそ、ここが整っていないと、いろんなところで事故が起きます。
一方で、顧客マスタを完璧にしようとすると、入力すべき項目が増え、更新の責任者を決めなければならず、運用が複雑になってすぐに疲弊します。結果的に「誰も更新しないマスタ」が出来上がるのは、よくある話です。
案件だけに絞って整えるなら、目的がシンプルになります。今、何が動いているのかが分かる。次にやるべきことが漏れない。担当が変わっても引き継げる。金額や確度で集計ができる。この4つが実現するだけで、「現場の事故」は一気に減ります。顧客データの整備は、そのあとで十分間に合います。
「崩さない整流」の基本方針
案件ボードを崩さずに整流するには、最初に”戦い方”を決めておく必要があります。ここを曖昧にしたまま進めると、現場から反発を受けて頓挫するか、中途半端な状態で放置されることになります。
ボードの見た目はいじらない
列の順番を変えたり、ステータスの選択肢を大改修したりすると、現場は必ず混乱します。「昨日まで使えてたのに」という声が出た時点で、整流プロジェクトの信頼は地に落ちます。まずは今のボードをそのまま使う。整えるのは、ボードの裏側にあるルールと識別子(キー)です。
「追記」で強くする
既存の列を消したり、並べ替えたりするのは避けます。追加するのは必要最小限の列だけ。しかも、既存のデータには手を付けない。「置き換え」ではなく「追記」で強くする、という姿勢が大事です。
案件は”1行1案件”を死守する
案件管理が壊れる典型的なパターンは、1つの案件が複数行に分裂したり、逆に1行に複数案件が混在したりすることです。ここだけは譲らず、1行=1案件を徹底します。このルールが崩れると、集計も追跡も不可能になります。
まず入れるべき「案件の最小カラム」
整流の目的は、案件を「識別できて、追える」状態にすることです。そのために必要な列は、実はそれほど多くありません。
案件ID
案件を一意に識別するためのキーです。形式は人が読めるものがおすすめで、たとえば「D-202601-0012」のように、年月と通し番号を組み合わせると運用しやすくなります。単なる連番だけだと、年度をまたいだときに混乱しやすいので注意が必要です。
会社名
現状のまま入力しているものでも、最初は問題ありません。法人名の表記ゆれは後から直せます。まずは運用を止めないことが優先です。
担当者
その案件の責任者が誰なのかを明確にします。ここが曖昧だと、整流しても結局「誰がやるの?」という状態が続いて、漏れが減りません。
ステータス
ステータスの設計を見直したくなる気持ちは分かりますが、ここも後回しにします。今のボードで使っているステータスをそのまま使い、運用を止めないことを優先します。
金額
見込み金額でも構いません。金額が入っていると、売上に直結する案件ほど丁寧に扱われるようになります。金額は、運用を引き締める”引力”のような役割を果たします。
クローズ予定日
あるいは「次の判断日」でも構いません。期日がない案件は、いつまでもボードに居座り続けます。終わりを意識させることで、動きが生まれます。
次アクション
議事録のように長く書く必要はありません。「見積送付」「稟議待ち」「次回MTG提案」など、動きが分かる一言で十分です。これがあるだけで、案件の状態が一目で把握できるようになります。
次アクション期限
次アクションが書いてあっても、期限がなければ結局放置されます。期限があるだけで、漏れは激減します。仮の日付でも構わないので、必ず入れるようにします。
整流の手順
ここからが実務の話です。ボードを止めずに整流を進めるには、段取りが9割を占めます。
Step1:案件IDを後付けで全行に付与する
まずは既存の案件行に案件ID列を追加し、空欄を埋めていきます。このとき重要なのは、「過去分を完璧にしようとしない」ことです。過去の案件は粗くても構わないので、進行中の案件を最優先で片付けます。
案件IDが入ると、同一案件の重複行を発見できるようになります。メールや予定、請求書など別のデータとも紐付けができるようになりますし、変更履歴を追いやすくもなります。地味な作業ですが、これが整流の土台になります。
Step2:ステータスは変えずに「定義だけ」書く
ステータス列はいじらず、別のシートに”辞書”を作ります。たとえば「提案中」は提案資料を提出済みで次が稟議待ちの状態、「交渉中」は条件調整または契約前の最終確認段階、「失注」は失注理由が最低1つ記録されている状態、といった具合です。
ここで大事なのは、ステータスを綺麗に整理することではなく、チーム内で意味がズレないようにすることです。定義が共有されていれば、多少の曖昧さは許容できます。
Step3:「次アクション」と「期限」を必須化する
整流の効果が一番出るのは、この部分です。案件ボードが機能不全に陥る原因の多くは、「次に何をするか」が書かれていないことにあります。
運用ルールはシンプルで構いません。ステータスが進行中なら、次アクションと期限は空欄禁止。期限は「来週金曜」のような仮の日付でもOK。そして、期限が切れた案件は週1回の会議で棚卸しする。このサイクルを回すだけで、放置案件は確実に減っていきます。
Step4:入力元を絞る
案件が増えるルートが複数あると、必ず重複が発生します。問い合わせフォーム、メール、口頭連絡、別のスプレッドシート……入口が増えるほど、管理は破綻に向かいます。
理想は、案件作成の入口を1つに絞ること。それが難しければ、せめて「新規案件の登録者」を限定するだけでも効果があります。誰でも自由に作れる状態は、整流しても元に戻ります。
Step5:集計は同ファイル内で作る
集計用に別ファイルを作り始めると、「案件管理だけ別ファイル問題」が発生します。どっちが最新なのか分からなくなり、やがて両方とも信用されなくなります。
おすすめは、同じファイル内に「集計ビュー」シートを作ることです。案件シートを正として、集計ビューは参照するだけ。こうすれば「どれが最新?」という混乱が起きにくくなります。
よくある失敗パターンと回避策
整流はやり方を間違えると、一瞬で現場から嫌われます。よくある地雷を先に把握しておきましょう。
「顧客マスタも一緒にやろう」として爆死する
案件整流の目的は、案件が回ることです。顧客マスタの整備は別プロジェクトとして切り分けるべきで、最初から全部を取りにいくと、どちらも中途半端になります。
ルールが多すぎて入力が止まる
ルールは少ないほど強いです。「案件ID」「担当」「次アクション」「期限」——まずはこの4つだけで十分です。細かいルールは、運用が定着してから追加しても遅くありません。
期限が形骸化する
期限が守られない組織では、期限欄が”気休め”になりがちです。対策は、期限が切れた案件を週1で棚卸しすること。これだけで状況は改善します。「期限を書く」ことより「期限を見る」習慣のほうが重要です。
案件が整ったら、次にやるべきこと
案件が整うと、「顧客マスタ」「活動履歴」「名寄せ」へ自然に拡張できます。順番としては以下の流れがおすすめです。
会社IDを後付けで作る
法人名の表記ゆれに耐えるためのキーを作ります。ここで初めて会社マスタが活きてきます。案件IDがすでにあるので、紐付けもスムーズに進みます。
活動ログを案件IDに紐付けて残す
メール、予定、メモを案件IDで紐付けます。案件起点で整理すれば、顧客データが完璧でなくても運用は回ります。完璧なマスタを待つ必要はありません。
名寄せルールを最小限で導入する
メールアドレス、ドメイン、電話番号など、判定の優先順位を決めて重複を減らしていきます。ここも、最初から完璧を目指さないことがポイントです。
まとめ
案件ボードは現場の生命線です。だからこそ、最初に手を入れるべきはデザインや列の並びではなく、案件を一意に識別できる状態と、次アクションが必ず残る状態を作ることです。
案件IDを後付けで付ける。担当を固定する。次アクションと期限を必須化する。入口を絞る。集計は同ファイル内の参照ビューで作る。この5つを押さえるだけで、案件管理は「頑張って入力するもの」から「自然に漏れない仕組み」へと変わります。
顧客マスタや活動履歴の統合は、その次で大丈夫です。まずは案件だけ、強くしていきましょう。