AIエージェント時代に求められる管理統制:CoE(センターオブエクセレンス)とは? – ファネルAi
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AIエージェント時代に求められる管理統制:CoE(センターオブエクセレンス)とは?

この記事の要点

  • AIが「対話ツール」から「自律的に仕事をこなす同僚」に変わった今、企業には”エージェント専用の管理組織”=CoE 2.0が不可欠である
  • CoE 2.0は、権限設計・プラグイン管理・MCP接続・ROI可視化の4つを担い、AIの暴走と現場の混乱を同時に防ぐ
  • 特定モデルに依存しない「業務資産」を積み上げることが、激変するAI市場で企業が生き残る鍵になる

2026年に入ってから、AIの話題はこれまでとは明らかに質が変わりました。「ChatGPTに聞いてみた」「Claudeで要約させた」――そうした”便利な相談相手”としてのAI活用は、もう過去のフェーズです。今のAIは、自分でファイルを開き、計画を立て、基幹システムにアクセスして成果物を仕上げるところまでやってしまう。いわば「自律的に動く同僚」に進化しています。

AnthropicがリリースしたClaude Coworkは、まさにその象徴です。デスクトップアプリから直接ローカルファイルを操作し、マルチステップのタスクを自律的にこなす。開発者でなくても使えるエージェント機能は、多くの企業にとって「業務の自動化」を一気に現実のものにしました。

しかし、この強力な武器を組織として正しく使いこなすには、従来のDX推進室や「AI活用チーム」では力不足です。そこで今、急速に注目を集めているのがCoE(Center of Excellence:センター・オブ・エクセレンス)の再定義、つまり「CoE 2.0」という考え方です。

本記事では、AIエージェント時代になぜ従来のAI推進体制では通用しないのか、そして新しいCoEが具体的に何を担うべきなのかを、実務の目線で掘り下げていきます。


旧来のAI推進チームが限界を迎えている理由

これまで多くの企業が置いてきた「AI推進チーム」や「DX推進室」は、ツールの選定やプロンプト講習会の開催、成功事例の社内共有といった役割が中心でした。それ自体は意義のあることでしたが、AIエージェントが本格稼働するフェーズでは、根本的に足りないものがあります。

エージェント・ガバナンスという未知の課題

AIエージェントは、ユーザーのローカルフォルダはもちろん、GitHub、Slack、さらにはSAPやOracleといったERP(基幹系システム)にまで直接アクセスします。つまり「誰が」「どのデータに」「どの程度の操作(読み取り・書き込み・削除)を許可するのか」という、従来のAI活用にはなかった権限設計が必要になります。

IBMが「AIエージェントのガバナンス」に関するレポートで指摘しているように、エージェントが独立して意思決定を行う能力を持つからこそ、人間側の管理設計が追いつかないケースが頻発しています。PwCやDeloitteといったコンサルティングファームも、エージェント時代のガバナンスフレームワーク構築を重要テーマとして取り上げており、これは一過性のトレンドではなく構造的な課題と言えるでしょう。

プラグインの「野良化」が引き起こす混乱

Claude Coworkには、業務フローを「プラグイン」としてパッケージ化して配布する機能があります。これは強力な仕組みですが、野放しにすれば各部署が独自の財務計算ロジックを持つプラグインを勝手に作り始め、組織としての一貫性(Single Source of Truth)が崩壊します。ある部門では税率の計算が旧ルールのまま、別の部門ではすでに最新の税制に対応している――こうした「データの信頼性が部署ごとに違う」状況は、内部統制の観点から致命的です。

モデルの高速進化に置いていかれるリスク

2026年に入ってからだけでも、AnthropicのOpus 4.6やOpenAIの新モデルなど、数ヶ月単位で基盤モデルが更新されています。トークン容量も推論能力も跳ね上がっている状況で、「去年導入したときのプロンプト設定のまま」では、せっかくの投資が陳腐化します。技術的な目利きとして、どの業務にどのモデルをどう接続すべきかを常時アップデートする機能が、組織のどこかに必要なのです。


CoE 2.0が担うべき4つのコア・ミッション

ここからが本記事の核心です。AIエージェント時代のCoEは、単なる「普及啓蒙」の組織ではありません。「AIエージェントが安全かつ効果的に動くためのインフラと統制を設計する、エンジニアリングとガバナンスの融合組織」――それがCoE 2.0のあるべき姿です。

4つのコア・ミッションを整理すると、以下のようになります。

ミッション具体的な役割なぜ重要か
ガバナンスと統制サンドボックス設計、HITL(Human-in-the-loop)の組み込み、監査ログ管理エージェントの暴走・誤動作による事故を防止し、監査対応を可能にする
プラグインの標準化とPluginOps標準プラグインの開発・配布、バージョン管理、セキュリティ審査、回帰テスト野良プラグインの乱立を防ぎ、組織としてのデータ一貫性を守る
接続性の確保(MCP)MCPサーバの構築、外部送信可能データとローカル完結データの分類AIエージェントを社内データ資産と安全につなぎ、業務自動化の実効性を高める
組織変革とROI可視化リードタイム短縮効果の計測、ナレッジのプラグイン化による属人化解消導入効果を経営層に説明し、全社展開への投資を引き出す

ガバナンスと統制をどう設計するか

最も優先度が高いのは、エージェントに「持たせる権限」の設計です。実行用フォルダと保存用フォルダを分離するサンドボックスの構築は基本中の基本ですが、特にFinance領域(月次決算や仕訳処理)では、最終的な承認ステップをプラグインのコードレベルで強制的に組み込む「HITL(Human-in-the-loop)」が不可欠です。

また、エージェントが「いつ、どのデータを使って、どんな推論プロセスで成果物を作ったか」という証跡の管理は、内部監査や外部監査の際に必ず問われます。この監査ログの自動取得と分析の仕組みを、CoEが設計・運用する必要があります。

プラグインの「金型」を作り、PluginOpsで品質を担保する

現場が「いちいちプロンプトを書く」時代は終わりました。CoEが実務に即した標準プラグインを開発し、全社に配布するのが理想です。財務分析、契約書チェック、営業報告書作成といったベストプラクティスをJSONやMarkdown形式のSkillsとしてパッケージ化し、誰でも同じ品質のアウトプットを出せるようにします。

さらに重要なのが「PluginOps」という概念です。プラグインのバージョン管理、セキュリティ審査、そしてモデルのアップデートに伴う挙動の再検証(回帰テスト)を継続的に実施する体制がなければ、プラグインはすぐに陳腐化するか、セキュリティホールになります。

MCPで社内のデータ資産とエージェントをつなぐ

AIエージェントを孤立させてしまっては意味がありません。Anthropicが提唱するMCP(Model Context Protocol)を使って、基幹システムやSaaS(Notion、Zendesk等)とエージェントを安全に接続するブリッジを構築するのがCoEの役割です。

ここで特に慎重さが求められるのは、データの分類です。「外部に送信して良いデータ」と「ローカル環境内で完結させるべきデータ」の境界を明確に定義しなければ、機密情報の意図しない流出につながります。CoEがこの分類基準を策定し、MCPサーバの設定に反映させる仕組みが必要です。

ROIの可視化で経営層を巻き込む

AIエージェント導入の効果を「残業代の削減」だけで測るのは不十分です。たとえば月次決算のリードタイムが10日から3日に短縮されたなら、その結果として経営判断の迅速化がどれだけの価値を生んだのかまで追うべきです。

もうひとつ見逃せないのが「属人化の解消」です。ベテラン社員の暗黙知や思考プロセスをプラグインに落とし込めれば、新入社員でも同等のクオリティでアウトプットを出せるようになります。これは人件費の削減以上に、組織のレジリエンスを高める効果があります。


【実例】月次決算プロセスでCoEはどう機能するか

ここでは、現在最もホットな適用領域のひとつである「財務・経理(Finance)」を例に、CoEの有無でどれほど結果が変わるかを具体的に見てみましょう。

CoEがない場合に起きること

経理担当者がClaude Coworkを使って月次決算を行おうとします。自己流のプロンプトで仕訳を作成し、モデルが誤った推論をしても本人が気づかず、そのまま承認。数ヶ月後の監査で重大な不備が発覚し、責任問題に発展する――これは決して極端なシナリオではありません。エージェントの出力をノーチェックで信頼することのリスクは、対話型AIの時代とは比較にならないほど大きいのです。

CoEが存在する場合のフロー

一方、CoEが機能している組織では、まず検証済みの「照合(reconciliation)」コマンドを含む標準プラグインが経理部門に配布されています。このプラグインには社内の勘定科目体系があらかじめ読み込まれており、担当者がゼロから設定する必要はありません。

データ取得についても、ERPから直接情報を引き出すためのセキュアなMCPサーバをCoEが構築・提供しているため、手作業でのコピペミスが排除されます。さらにプラグイン内には「有資格者がチェックし、承認コードを入力しない限り保存できない」というワークフローが組み込まれており、ヒューマンエラーの防波堤になっています。

そして翌月、モデルに新しい能力が追加されたり挙動が変わったりすれば、CoEがプラグインのロジックをアップデートし、全経理担当者に一斉配布します。現場の負担を増やさずに、常に最新の技術を活用できる体制が整うわけです。


CoE構築を成功に導く3つのステップ

ここからは、実際にCoEを立ち上げるためのロードマップを紹介します。最初から全社展開を目指すと、セキュリティ部門の抵抗や現場の反発で頓挫するケースが多いため、段階的なアプローチが鍵になります。

ステップ1:パイロット部門の選定と「クイックウィン」の創出

最初にターゲットとすべきは、FinanceやBizOps(営業企画)など「データが構造化されており、かつ繰り返し作業が多い部門」です。ここで「30日以内に月次レポートの作成工数を50%削減する」といった、測定可能で短期間に達成できる目標を設定し、目に見える成果を出します。この「クイックウィン」が、経営層からの信頼と追加投資を引き出す原動力になります。

ステップ2:社内版「エージェント・プレイブック」の作成

パイロットで得た知見を元に、組織共通のルールブックを策定します。どのようなMCPサーバを立てるべきか、プラグインの命名規則はどうするか、セキュリティ審査のチェックリストは何項目で構成するか――こうした実務レベルの標準を文書化しておくことで、次に展開する部門への導入がスムーズになります。

ステップ3:AIエージェント・プラットフォームの確立

最終的には、個々のローカル環境に依存しない形で、全社的にプラグインやナレッジを共有できるプラットフォームを構築します。いわば「プライベート・プラグイン・ストア」のような仕組みです。Anthropicも組織共有機能の強化を進めているため、これに合わせてITインフラを整備していくのが現実的でしょう。

ステップ期間の目安主なアウトプット成功の判断基準
1. パイロット1〜2ヶ月特定業務の自動化プラグイン、効果測定レポートKPIの改善が定量的に証明できること
2. プレイブック策定2〜3ヶ月ガバナンスルール、セキュリティチェックリスト、命名規則次の部門に展開する際の手順が明確であること
3. プラットフォーム確立3〜6ヶ月全社プラグインストア、MCP接続基盤、監査ログ基盤3部門以上で同一基盤が運用されていること

「特定モデルに依存しない資産」を積み上げるという発想

2026年2月現在、企業は「どのAIモデルを選ぶべきか」という問いに直面しています。AnthropicのOpus 4.6とOpenAIの最新モデルが激しく競争し、数ヶ月で勢力図が変わる可能性すらあります。

しかし、CoEの真の価値は「モデルに依存しない資産を積み上げること」にあります。MCPによる接続層の構築、業務プロセスを分解したSkills(手順書)の蓄積、監査ログの体系化――これらは、たとえ来月に別のベンダーがさらに強力なモデルを出したとしても、そのまま移行可能な「企業の知的資産」です。

CoEは、特定のモデルにロックインされるリスクを回避しつつ、最新技術の果実を最大限に活用する「ポートフォリオ・マネジメント」の役割を果たします。モデルは入れ替わっても、業務プロセスの知見とガバナンスの仕組みは残る。この「残るもの」にこそ投資すべきだという視点が、CoE 2.0の根幹にあります。


筆者が現場で感じているCoE構築の「リアルな壁」

ここからは少し主観的な話をさせてください。実際にAIエージェントの導入支援に関わっていて強く感じるのは、「技術的なハードル」よりも「組織的な合意形成」のほうがはるかに難しいということです。

たとえば、あるメーカーの経理部門でClaude Coworkを使った月次決算の自動化をパイロット導入した際、技術的にはわずか2週間でプラグインが完成しました。ところが、情報セキュリティ部門との調整に3ヶ月、法務部門との契約レビューにさらに1ヶ月。結果として、技術よりも社内調整にかかる時間のほうが圧倒的に長かったのです。

こうした経験から私が学んだのは、CoEには「技術がわかる人」だけでなく、「社内政治を動かせる人」が必要だということです。理想的には、経営企画やリスク管理のバックグラウンドを持つメンバーをCoEに引き込むことで、セキュリティ部門や法務部門との交渉がスムーズになります。

もうひとつ痛感しているのは、「完璧を目指すと永遠に始まらない」ということ。ガバナンスの設計に半年かけている間に、現場では野良プラグインが20個も30個も生まれてしまう。それよりも、70点のガバナンスで走り始めて、運用しながら90点に近づけていくほうが、結果的に統制が取れるケースが多いです。


よくある質問(FAQ)

そもそもCoEとは何ですか?

CoE(Center of Excellence)とは、特定の領域における専門知識やベストプラクティスを集約し、組織全体に展開するための専門チームのことです。AI領域では、モデルの選定からガバナンス設計、プラグイン開発、効果測定まで、AI活用に関するあらゆる機能を横断的に担います。

CoEは大企業でないと作れないのでは?

規模に関係なく構築可能です。大企業のように専任チームを置く余裕がなくても、兼任メンバー2〜3名で「プラグインの標準化」と「セキュリティルールの策定」だけ先に始めるアプローチで十分に機能します。重要なのは人数ではなく、「AIエージェントの使い方に組織として統一ルールを持つ」という意思決定そのものです。

MCP(Model Context Protocol)とは何ですか?

MCPは、AIモデルと外部のデータソースやツールを標準化された方法で接続するためのオープンプロトコルです。Anthropicが2024年に提唱したもので、基幹システム(SAP、Oracle等)やSaaS(Notion、Zendesk等)とAIエージェントをつなぐ「橋渡し」の役割を果たします。これにより、エージェントがデータを安全に取得・操作できる環境が整います。

CoEを作らずにAIエージェントを導入するとどうなりますか?

短期的にはうまくいくように見えることもありますが、中長期的には「野良プラグインの乱立」「セキュリティインシデント」「部署間のデータ不整合」といった問題が高確率で発生します。とりわけ監査対応が求められる上場企業では、証跡管理の不備が重大なコンプライアンスリスクにつながります。

AIモデルの選定もCoEが行うべきですか?

はい。CoEが技術的な目利きとして、業務特性に応じたモデルの選定・評価を行うことが理想です。ただし、すべてを自前でやる必要はありません。外部のベンダーやコンサルと連携しつつ、最終的な判断と標準化をCoEが担う体制が現実的です。


まとめ:CoEは「経営の司令塔」である

AIエージェント時代において、CoEはバックオフィスの一組織ではありません。「人間とAIがどう協調して価値を生むか」という、企業の業務プロセスそのものを設計する「経営の司令塔」です。

Claude CoworkやOpus 4.6といった強力なエンジンを、無秩序な「個人の力」で終わらせるのか。それともCoEによって「組織のOS」へと昇華させるのか。その差が、今後の企業の競争力を決定づけるといっても過言ではないでしょう。

今すぐ取り組むべきは、新しいAIツールの導入そのものではありません。信頼を担保するガバナンスと、再現性を生む仕組み(PluginOps)を設計するCoEチームの組成――それが、AIエージェント時代の第一歩です。

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