SNS時代の危機管理広報(Crisis Communication)―― 企業の存続を左右する「最後の砦」
はじめに
みなさん、こんにちは。
企業不祥事や事故のニュースを見るたび、「あの会社、対応がまずいな…」と感じたことはありませんか?
SNSが普及した現代社会では、企業の不祥事はあっという間に拡散し、その対応いかんで企業の存亡すら左右されかねません。記者会見がネットで生中継され、企業トップの一言一句がSNSで話題になる時代。危機管理広報はもはや「あったら良いもの」ではなく、企業経営に不可欠な要素となっています。
今回は、企業の評判と存続を守る「最後の砦」である危機管理広報(Crisis Communication)について、その基礎から実践的なアクションプランまでご紹介します。
危機管理広報(Crisis Communication)とは何か?
通常の広報活動との違い
危機管理広報とは、企業や組織が予期せぬ危機的状況に直面した際、その被害や損失を最小限に抑え、組織の信頼を守るために行う広報活動のことです。
通常の広報活動が「良いこと」を伝える活動だとしたら、危機管理広報は「悪いこと」が起きた時の対応です。
通常広報: 製品・サービスのPR、ブランド価値向上(プラスの発信)
危機管理広報: 不祥事・事故への対応、信頼回復(マイナスを最小化)
適切な危機管理広報ができれば信頼回復につながりますが、不適切であれば元のトラブル以上に企業イメージを傷つけてしまうリスクがあります。
法的リスクとのバランス
危機管理広報では、社会的信用だけでなく法的リスクにも目配りする必要があります。
デマや憶測による名誉毀損リスク
誤った情報発信による損害賠償リスク
謝罪と法的責任の関係
よくある誤解として「謝罪=法的責任の認定」という考えがありますが、記者会見で社長が謝罪しても直ちに責任が認定されるわけではありません。むしろ誠意ある対応が世論の反発を抑え、結果的に企業にとってプラスになることも多いのです。
危機対応の成功例と失敗例
SNS炎上・情報漏洩の事例
具体的な事例を見てみましょう。
【事例1】SNS炎上 ― 大手企業の教育現場での発言問題(2022年)
大手企業の幹部が教育現場で不適切な発言をし、それを聞いた受講者がツイッターで発信したことで大炎上。
【事例2】個人情報漏洩 ― 兵庫県尼崎市の全市民情報紛失事件(2022年)
尼崎市の職員が全市民の個人情報が入ったUSBメモリを紛失する事件が発生し、連日ニュースで報道される事態に。
これらのケースから学べるのは、SNS時代では閉じた場での出来事でも瞬く間に拡散するという現実です。また、SNSでの炎上を嗅ぎ付けたマスメディアが追随報道し、事態がさらに拡大するという構造も見逃せません。
謝罪会見の明暗を分けるもの
失敗例:知床遊覧船沈没事故(2022年4月)
運航会社社長は事故から5日も経ってようやく記者会見を開き、場当たり的な土下座に終始。「最終的には船長の判断」「お客様の要望もあった」など責任転嫁とも取れる発言を連発し、遺族や世間の怒りを買いました。
成功例:名古屋高速バス横転炎上事故
こちらの会社では事故発生翌日の午前中には記者会見を開き、社長らが素早く対応。記者からの質問にも真摯かつ詳細に答え、原因究明と再発防止策について説明責任を果たしました。
同じ「死亡事故」という最悪の事態でも、対応次第で遺族の心情や世間の心証に大きな差が生まれることが示されています。
広報と法務の連携が鍵
危機管理広報を成功させるには、広報部門と法務部門の緊密な連携体制を平時から築いておくことが不可欠です。
法務部門の視点: 法的リスクの最小化、訴訟リスクの回避
広報部門の視点: 社会的信頼の回復、透明性の確保
両者がそれぞれの専門性を尊重しつつ、「企業として何を伝えるべきか」「何を伝えてはいけないか」を事前に摺り合わせておくことが大切です。
ただし、会見の場では弁護士任せにせず、自社の責任者が自らの言葉で説明することが重要です。弁護士の同席は極力避け、法的助言は準備段階に留めて、表向きのコミュニケーションでは誠意と分かりやすさを優先すべきでしょう。
実践!危機管理広報アクションプラン
では具体的に、危機発生時にどう対応すべきか、5つのステップでご紹介します。
1. 平時の準備
「うちには関係ない」と思わないことが大切です。平常時から危機発生を想定し、以下の準備を進めましょう。
危機管理広報マニュアルの整備
想定問答集の作成
記者会見のシミュレーション
SNSモニタリング体制の構築
2. 初動対応の徹底
危機発生後の初動が肝心です。初動の3時間で危機対応の8割が決まるとも言われています。
30分以内を目安に緊急対策本部を立ち上げる
事実関係の迅速な把握に努める
確認できた事実と未確認情報を切り分ける
3. 情報開示とメッセージ発信
対外公表は可能な限り早く行いましょう。
状況に応じた発表手段を選ぶ(記者会見/プレスリリース等)
正確な事実を盛り込み、不明点は「現時点で不明」と明言する
被害者や関係者がいる場合は真摯に謝罪する
トップ(社長など経営層)が自ら説明責任を果たす
図表やデータを用いて分かりやすく説明する
4. 広報・法務の協働と統一対応
危機対応中は社内の連携が重要です。
広報担当と法務担当の緊密な連携
発信内容のリーガルチェック
広報・法務・経営層の一枚岩対応
一貫したメッセージの発信
5. 収束後のフォローと再発防止
危機対応は発表して終わりではありません。
約束した追加情報の開示や被害者対応の進捗報告
事故原因や不祥事の背景の徹底分析
再発防止策の講じて公表
対応プロセス自体の検証と改善
おわりに
Crisis Communication(危機管理広報)は、企業の評判と存続を守る「最後の砦」です。危機に直面したときこそ企業の真価が問われます。
迅速さ、透明性、そして誠実さを持って危機対応に臨めば、最悪の事態を乗り越えるだけでなく、むしろ信頼回復を通じて企業ブランドを向上させることすら可能です。
実際、不祥事発覚後の対応によってブランド力が向上した企業も存在します。1982年のジョンソン・エンド・ジョンソン社によるタイレノール事件対応はビジネス史上屈指の「神対応」として語り継がれています。
企業広報・法務担当者や経営層にとって、平時から危機管理広報の基礎を学び備えておくことは、いざというとき組織とステークホルダーを守るための必要条件です。危機に強い企業となるために、今日からできる準備を怠らないようにしましょう。