ULSSAS(ウルサス)とは?広告が届かない時代に消費者を動かす新しい購買モデルの全貌
ULSSASとは、UGC(ユーザー投稿)を起点とした循環型の購買行動モデルです。 従来のAIDMAやAISASが「企業発信の広告」から始まるのに対し、ULSSASは「信頼できる誰かの投稿」から始まります。このモデルでは、購入後の「拡散」が次の誰かの「認知」となり、サイクルが自動的に回り続けるため、広告費に依存しない持続的な成長が可能になります。重要なのは「どうすればバズるか」ではなく「どうすればユーザーが語りたくなるか」という視点の転換です。
正直に言えば、私も数年前までは「SNSマーケティング」という言葉に懐疑的でした。フォロワー数を増やして、いいねを集めて、それで何が変わるのか。結局は広告を打たなければモノは売れないのではないか。そう思っていた時期があります。
しかし、実際にクライアントのSNS運用に深く関わるようになって、その認識は完全に覆されました。広告費を月に数百万円かけても売上が伸び悩んでいたブランドが、SNS上での「ある仕掛け」をきっかけに、広告費を削減しながら売上を伸ばしていったのです。
その「仕掛け」の背景にあったのが、今回お話しする**ULSSAS(ウルサス)**という購買行動モデルでした。
「広告費をかけてもコンバージョンが増えない」「フォロワーは増えたのに売上に繋がらない」——そんな悩みを抱えているマーケティング担当者にとって、このモデルを理解することは、現状を打破する大きなヒントになるはずです。
なぜ今、従来の購買モデルでは通用しなくなったのか
マーケティングの教科書を開けば、必ず登場するのがAIDMA(アイドマ)やAISAS(アイサス)といった購買行動モデルです。これらのモデルは長年にわたって多くの企業のマーケティング戦略の基盤となってきました。
しかし、スマートフォンが普及し、SNSが生活の一部となった現在、これらのモデルだけでは消費者の行動を十分に捉えきれなくなっています。
その最大の理由は、消費者が「広告をスルーするスキル」を身につけてしまったことです。
考えてみてください。あなた自身、YouTubeの広告をスキップボタンが出るまでの5秒間、本当に見ていますか。Instagramのフィードに流れてくる広告投稿を、じっくり読んでいますか。おそらく、ほとんど無意識のうちにスワイプしているのではないでしょうか。
私たちは毎日、数え切れないほどの広告メッセージに晒されています。その結果、脳が自然と「これは広告だ」と判断したものを、処理対象から外すようになりました。どれだけ精緻にターゲティングされた広告であっても、「企業が発信している」という時点で、心理的なフィルターがかかってしまうのです。
ULSSASの起点は「企業」ではなく「ユーザー」にある
従来のAIDMAやAISASといったモデルには、ある共通点があります。それは、すべての起点が「Attention(認知)」であり、この認知を作り出すのが主にテレビCMやWEB広告といった「企業の力」だということです。
ULSSASは、この前提を根本から覆します。
ULSSASの最初の「U」は、UGC(User Generated Content)、つまりユーザーが自発的に作成したコンテンツを意味します。企業が何を言っているかではなく、信頼できる友人やフォローしているインフルエンサーが何を使っているか。現代の消費において、最初のきっかけの多くは、Instagramのストーリーズやx(旧Twitter)のタイムライン上に流れてくる「誰かのリアルな投稿」から始まるのです。
これは単なる理論ではありません。実際に、私がコンサルティングを担当したあるコスメブランドでは、テレビCMへの投資を減らし、代わりにUGCが生まれやすい施策に注力した結果、半年で指名検索数が2倍以上になりました。広告で「良い商品です」と100回言われるよりも、信頼している友人が「これ本当に良かった」と1回言う方が、はるかに心に響く。それが現代の消費者心理なのです。
ULSSASの6つのステップを具体的に理解する
ULSSASという名前は、購買行動の各ステップの頭文字を取ったものです。それぞれの段階を、実際の消費者の行動としてイメージしながら見ていきましょう。
U(UGC):すべては誰かの投稿から始まる
週末の朝、あなたはベッドの中でスマートフォンを開き、Instagramをチェックしています。すると、仲の良い友人が「このカフェ最高だった!」というコメントとともに、美しいラテアートの写真を投稿しているのが目に入りました。
これがUGCです。企業の公式アカウントではなく、あなたが信頼している「誰か」が発信した、リアルな体験の共有。ULSSASのすべては、ここから始まります。
L(Like):共感が次のアクションを生む
その投稿を見たあなたは、思わず「いいね」を押します。この「いいね」という行為は、単なる共感の表明以上の意味を持っています。アルゴリズム上、あなたがそのカフェに興味を持っていることが記録され、同様の投稿が今後も表示されやすくなります。また、心理的にも「気になるもの」としてあなたの記憶に残ります。
S(Search 1):まずは「タグる」
「いいね」を押した後、あなたは気になってそのカフェについてもっと知りたくなります。しかし、すぐにGoogleを開くわけではありません。まずはInstagram内で、その店名のハッシュタグを検索します。
この行動は「タグる」と呼ばれ、現代の消費者、特に若年層において非常に一般的になっています。なぜなら、SNS内の検索結果には、実際に訪れた人たちのリアルな写真や感想が並んでいるからです。公式サイトに載っている「プロが撮影した完璧な写真」よりも、一般の人が撮った「等身大の写真」の方が、自分が行ったときのイメージが湧きやすいのです。
S(Search 2):そして「ググる」
SNSで十分に情報を集め、「ここは良さそうだ」という確信を得たあなたは、次にGoogleで店名を検索します。営業時間、アクセス方法、予約が必要かどうかなど、実際に行動するために必要な具体的な情報を調べるためです。
この段階での検索は「指名検索」と呼ばれます。「渋谷 おしゃれ カフェ」のような一般的なキーワードではなく、「〇〇カフェ」とズバリ店名で検索している状態です。
A(Action):実際に購入・来店する
十分な情報を得たあなたは、実際にそのカフェを訪れます。そして、友人の投稿通り、期待を裏切らない素敵な体験をすることになります。
S(Spread):そして自分も拡散する
美味しいコーヒーと居心地の良い空間に満足したあなたは、自分もスマートフォンを取り出して写真を撮り、SNSに投稿します。「友人に教えてもらったカフェ、本当に最高だった!」というコメントとともに。
この投稿が、また別の誰かのUGCとなり、新しいサイクルが始まります。
従来のモデルとULSSASを比較する
ここで、従来の購買行動モデルとULSSASの違いを整理してみましょう。
| 項目 | AIDMA | AISAS | ULSSAS |
|---|---|---|---|
| 起点 | 広告による認知 | 広告による認知 | ユーザー投稿(UGC) |
| 検索行動 | なし | 1回(主にGoogle) | 2回(SNS→Google) |
| 共有の位置づけ | なし | 購入後の結果 | 次のサイクルの起点 |
| プロセスの形状 | 直線型 | 直線型 | 循環型 |
| 主な推進力 | 企業の広告費 | 企業の広告費 | ユーザーの自発的行動 |
| 信頼性の源泉 | 企業のブランド力 | 企業のブランド力 | 第三者の推奨 |
この表を見ると、ULSSASが従来のモデルと根本的に異なる構造を持っていることがわかります。
最も重要な違いは、プロセスが「循環型」であることです。AIDMAやAISASでは、購入がゴールであり、そこでプロセスは終了します。一方、ULSSASでは、購入後の「拡散」が次の誰かの「認知」となり、サイクルが永続的に回り続けます。
これこそが、ULSSASが「最強のフライホイール」と呼ばれる所以です。一度良質なUGCが発生すれば、企業が広告費をかけ続けなくても、ユーザー自身が無償の営業マンとなって商品を広めてくれるのです。
「指名検索」こそがULSSAS成功の指標である
ULSSASモデルがうまく機能しているかどうかを測る、最もわかりやすい指標があります。それが「指名検索数」です。
「おすすめ 化粧水」「人気 スニーカー」といった一般的なキーワード(ビッグワード)でのSEO対策は、競合も多く、膨大なコストと時間がかかります。しかも、そうしたキーワードで検索してくるユーザーは、まだ「何を買うか決めていない」状態であり、購入に至る確率は相対的に低くなります。
一方、SNSでUGCが溢れている状態を作れていれば、ユーザーは最初から「〇〇(商品名)」とズバリ指名で検索してきます。指名検索をしてくるユーザーは、すでにSNS上で商品の魅力を理解し、他の選択肢を検討するまでもなく「これが欲しい」と思っている状態です。当然、コンバージョン率は圧倒的に高くなります。
私が関わったあるアパレルブランドでは、指名検索からのコンバージョン率が、一般キーワード検索の約5倍という結果が出ました。しかも、指名検索で流入したユーザーは、購入後のレビュー投稿率も高く、さらなるUGCを生み出す好循環が生まれていました。
SEO担当者とSNS担当者が別々の部署にいる企業も多いですが、実はこの二つは密接に繋がっています。SNSでUGCを発生させ、指名検索を増やし、SEOの勝率を上げる。この連携こそが、これからのマーケティングにおいて不可欠なのです。
筆者の経験から——UGCが生まれる瞬間に立ち会って
ここで、私自身の経験をお話しさせてください。
以前、ある地方の和菓子店のブランディングに関わったことがあります。老舗ではあるものの、若い世代への認知が低く、売上は年々減少傾向にありました。当初、クライアントは「インスタ映えする新商品を作りたい」と考えていました。
しかし、私は別のアプローチを提案しました。それは、既存の商品の「見せ方」を変えることです。
その店には、何十年も変わらず作り続けている素朴な最中がありました。地元の常連客には愛されていましたが、SNS映えするとは言い難い、地味な見た目です。しかし、この最中には「注文を受けてから餡を詰める」という特徴がありました。皮のパリパリ感を最大限に味わってもらうための、職人のこだわりです。
私たちは、この「目の前で餡を詰める」シーンを、ユーザーが撮影しやすいように演出しました。カウンター席を設け、職人の手元がよく見えるようにし、「撮影OK」のサインを目立つ場所に置きました。
結果は、予想以上でした。「目の前で餡を詰めてくれる」という体験が、多くのユーザーによって動画で投稿されるようになったのです。新商品を開発したわけではありません。既存の商品に「語りたくなる文脈」を付加しただけです。
この経験から私が学んだのは、UGCは「作らせる」ものではなく「生まれる環境を整える」ものだということです。
UGCが自然発生する「語りたくなる仕掛け」の作り方
では、具体的にどうすれば最初のUGCを生み出せるのでしょうか。ただ良い商品を作るだけでは、ユーザーは投稿してくれません。そこには「語りたくなる文脈(コンテキスト)」が必要です。
UGCが生まれやすい状況を作るためのポイントをいくつかご紹介します。
まず、「ビジュアルの力」を軽視しないことです。写真に撮りたくなるパッケージ、店舗の内装、商品の盛り付け。視覚的な魅力は、SNS時代において無視できない要素です。ただし、これは「派手にすればいい」という意味ではありません。「自分のフィードに載せても違和感がない」「むしろ自分のセンスが良く見える」と思ってもらえるデザインであることが重要です。
次に、「驚きや感動の体験」を設計することです。先ほどの和菓子店の例のように、「目の前で調理してくれる」「パッケージを開けると予想外のものが入っている」「接客が感動的に丁寧」など、誰かに話したくなるような体験は、UGCの強力な原動力になります。
そして、「使いやすいハッシュタグ」を用意することも忘れてはいけません。長すぎるタグ、英語で打ちにくいタグ、他の意味と被るタグは避けるべきです。ユーザーが迷わず使えるシンプルなタグを公式に提示しておくことで、UGCが一箇所に集まりやすくなります。
最も大切なのは、「これを投稿したら、私がどう見えるか」というユーザー心理を理解することです。SNSへの投稿は、本質的に自己表現の行為です。「おしゃれに見える」「詳しい人だと思ってもらえる」「面白い人だと認識される」——そんなふうに、ユーザーの自己表現欲求を満たすような仕掛けを用意できるかどうかが、マーケターの腕の見せ所なのです。
よくある質問(FAQ)
Q1: ULSSASはどんな業界にも適用できますか?
基本的な考え方はどの業界にも適用可能ですが、特に「視覚的に表現しやすい」「体験を共有しやすい」商材との相性が良いです。飲食、アパレル、コスメ、旅行などは典型的ですが、BtoBでも「導入事例」や「成功体験」をユーザーに語ってもらう形で応用できます。
Q2: フォロワーが少なくてもUGCは発生しますか?
発生します。むしろ重要なのは、フォロワー数ではなく「投稿したいと思う理由」があるかどうかです。フォロワーが100人でも、その人のリアルな投稿が友人5人に届けば、そこから新しいサイクルが始まります。
Q3: インフルエンサーマーケティングとULSSASの違いは?
インフルエンサーマーケティングは「企業がお金を払って投稿してもらう」ものであり、起点は依然として企業側にあります。一方、ULSSASにおけるUGCは、ユーザーの自発的な投稿が前提です。両者を組み合わせることは可能ですが、本質的な違いを理解しておくことが重要です。
Q4: UGCが発生しない場合、どうすればよいですか?
まず、自社の商品やサービスに「語りたくなる要素」があるかを見直してください。機能的な価値だけでなく、感情的な価値(驚き、感動、共感)が含まれているかがポイントです。また、既存顧客へのアンケートやインタビューで「なぜ購入したか」「何が印象に残ったか」を聞き出し、そこにヒントを見つけることも有効です。
Q5: 効果測定はどのように行えばよいですか?
最もわかりやすい指標は「指名検索数」の推移です。Google Search Consoleなどで、ブランド名や商品名での検索数をモニタリングしてください。また、SNS上でのブランド名やハッシュタグの言及数、UGCの投稿数も重要な指標になります。これらの数値が増加傾向にあれば、ULSSASのサイクルが回り始めていると判断できます。
まとめ:拡声器を捨てて、焚き火を囲む時代へ
かつてのマーケティングが、拡声器を使って大勢に向かって叫ぶ行為だったとすれば、ULSSAS時代のマーケティングは、小さな焚き火を囲んで語り合う行為に似ています。
企業が一方的にメッセージを発信するのではなく、ユーザーの輪の中に入り、会話のきっかけとなるネタを提供する。そして、そこで生まれた熱——つまりUGC——が、また次の人を引き寄せていく。
この循環を生み出すことができれば、広告費を際限なく増やし続けなくても、ビジネスは自律的に成長していきます。広告が届かない時代だからこそ、届くのは「信頼できる誰かの声」なのです。
「どうすればバズるか」という発想から、「どうすればユーザーが語りたくなるか」という発想へ。その視点の転換ができたとき、あなたのマーケティングは新しいステージに進むはずです。
最後に一つ、実践的なアドバイスを。まずは、あなたの商品やサービスについて、SNS上でどんな投稿がされているかを検索してみてください。もしUGCがほとんど見つからないなら、それは「商品が悪い」のではなく「語りたくなる文脈がない」だけかもしれません。そこに気づくことが、ULSSASを回し始める最初の一歩になります。