スプレッドシート顧客管理で重複が増える本当の原因|発生源を断つ名寄せ設計の実践ガイド
スプレッドシートで顧客管理をしていると「同じ会社が複数行ある」状態にほぼ確実に陥りますが、これは個人のミスではなく運用の設計ミスです。 会社名は揺れやすく、入力経路が複数あり、統合責任者がいないと重複は自然発生します。本記事では、発生源を潰す手順を解説。会社と人物の識別キー(ドメイン、メールアドレス等)を決め、会社マスタと人物マスタを分離し、登録時に候補を提示して「新規か既存か」を選ばせるフローにする。週次で少しずつ統合し、新規作成権限と更新責任者を置くことで、重複は止められます。
「同じ会社が2行ある」「担当者が3人に分裂している」「どれが最新かわからない」——スプレッドシートで顧客管理を続けていると、ほぼ確実にこの状態に陥ります。
厄介なのは、これが誰かのミスではなく、運用の設計ミスとして起きることです。つまり、個人の注意力では防げません。
この記事では、重複(同一企業・同一人物)が増える構造的な原因をほどきながら、発生源を潰していくための手順を実務で回る形に落として説明します。
重複が増えると、なにが壊れるのか
重複は単なる「データの汚れ」ではありません。放置すると、現場の意思決定そのものがズレます。
たとえば、営業が「この会社、まだ商談化してない」と思ってアプローチしたら、別行に過去の失注履歴があった。CS(カスタマーサクセス)が問い合わせ対応しているのに、別行に契約条件が書かれていて見落とした。請求担当が同一企業を別企業だと思い込み、請求書を二重で出した——。
こうした事故は、原因をたどるとだいたい同じところに行き着きます。「会社」と「人」のキー(識別子)が揃っていないこと、入力経路が複数あってバラバラのルールで登録されること、そして統合や更新の責任者がいないこと。この3つが揃うと、重複は自然発生します。
重複(同一企業)が増える原因
会社重複の最大原因はシンプルで、法人名は揺れるからです。
企業名ゆれの典型パターン
同じ会社でも、入力者や文脈によって表記が変わります。「株式会社〇〇」と「〇〇株式会社」、「(株)〇〇」と「〇〇(株)」。ホールディングス表記も「〇〇ホールディングス」「〇〇HD」「〇〇グループ」と分かれます。さらに「〇〇東京支店」「〇〇本社」「〇〇営業所」のように拠点名が入ったり、英字表記(ABC Inc.)と日本語表記(株式会社ABC)が混在したり、会社名ではなくサービス名やブランド名で登録されていたり。
この状態で「会社名で検索して見つからなかったら新規追加」という運用にすると、重複は増えて当然です。
ドメインの扱いが曖昧になっている
BtoBでは、会社の識別にメールドメインがかなり効きます。ただしドメインも万能ではないので、扱いを決めないと逆に混乱します。
たとえば @company.co.jp と @group.co.jp が併存していてどちらが正か分からない、代理店や外注が顧客の名義でメールするのでドメインが一致しない、フリーアドレス(Gmail等)で連絡が来るので会社判定できない、といった問題が起こります。
つまり、「ドメインを使う」だけでは不十分で、「ドメインの扱い方針」が必要です。
重複(同一人物)が増える原因
人物重複は、会社よりさらに発生しやすいです。理由は、人の属性は流動的だから。
人物が割れる典型的な原因
メールアドレスが複数ある(部署用、個人用、転職後)、旧姓や表記ゆれがある(漢字・カナ・ローマ字)、名刺の表記とメールの表記が違う、代理返信(アシスタントや代表アドレス)で送受信している、一度登録したのに検索が弱くて見つけられない——。
そして運用としてよくあるのが、次の地獄のループです。「見つからない→とりあえず新規登録→後で直そう→直されない→さらに見つからない」。これが回り始めると、重複は加速度的に増えます。
重複を止める基本方針
ここが重要なポイントです。フォーム、メール、名刺、展示会、紹介、インサイドセールスの手入力……入力経路をゼロにするのは不可能です。
やるべきは、発生源を「減らす」ことではなく、どの入口から入ってきても同じ判定ルールに通るようにすることです。そのために必要なのは、識別子(キー)を先に決めることと、登録フローを「判定→候補→確定」にすることの2つです。
最初に決めるべき「名寄せキー」の最小セット
スプレッドシート運用でも、ここを決めるだけで発生率がガクッと下がります。
会社の名寄せキー
会社を識別するキーは、優先順位をつけて運用します。
最も強いのは法人番号です。取得・運用コストがあるので全社でやり切れる場合に限りますが、持てるなら最強の識別子になります。
次に強いのが公式ドメインで、BtoBなら実務の主軸になります。ただし、フリードメインや代理店経由に備えた例外ルールもセットで持っておく必要があります。
最後の砦が正規化した社名です。社名は揺れるので、登録時に正規化ルールを通します。たとえば「株式会社」「(株)」などの表記を除去して比較する、全角半角を統一する、スペースを削る、といったルールです。
人物の名寄せキー
人物を識別するキーも、優先順位をつけます。
最優先はメールアドレスです。同一人物判定の基本はメールですが、「転職」「複数アドレス」を考えると、メールだけに依存すると別人化してしまいます。
次に使えるのが会社IDと氏名の組み合わせです。会社が同じで氏名が同じなら、同一人物候補になります。ただし同姓同名がゼロではないので、「候補止まり」にしておくのが安全です。
電話番号は補助的なキーとして扱います。個人携帯が取れるなら強いキーになりますが、取得率が低い現場も多いので、あくまで補助という位置づけが現実的です。
仕組み化のコア:会社マスタと人物マスタを分ける
重複が増えるチームの多くは、1枚のシートに「会社情報」と「人物情報」と「案件情報」を混ぜています。これだと、人物が増えるたびに会社が複製されます。結果として会社重複が爆増します。
スプレッドシートでもできる最低限の分離
会社マスタには、会社ID、正規社名、ドメイン、住所、業種、メモを入れます。人物マスタには、人物ID、会社ID、氏名、メール、電話、役職を入れます。案件(または活動)シートには、案件ID、会社ID、人物ID、ステータス、次アクション、更新日を入れます。
ポイントは、会社IDで紐づけることです。「会社名をコピーして貼る」という運用をやめるだけで、重複の広がり方が変わります。
登録フローを変える
重複を止める現実的な方法は、入力者の注意力に頼らないことです。
スプレッドシート向けの具体的な運用
まず入力フォーム(または入力行)に、メールアドレス、社名、ドメインを入れます。次に、自動で候補を出します(同一ドメイン、正規化社名一致、類似社名)。そして「既存に紐づける」か「新規作成」かを選ばせます。新規の場合のみ、会社ID、人物IDを払い出します。
これだけで、登録時点での重複が大幅に減ります。特に効果が高いのは「ドメイン一致候補」の表示です。
既に増えた重複をどう直すか
重複が溜まってから「統合プロジェクト」を始めると、だいたい途中で止まります。理由は、やることが無限に見えるから。おすすめは、毎週30分で減らす運用です。
小さく直すコツ
今週触った会社だけ直す(今週の商談や問い合わせから)というアプローチが有効です。「統合する」より先に「正」を決めること(正マスタを固定すること)も重要です。統合後に必ず残す項目を決めておくことで、履歴やメモ、担当者情報などを失わずに済みます。
「完璧にきれい」より「これ以上増えない」を優先する姿勢が、運用を継続させる鍵になります。
重複を再発させない運用ルール
最後に、仕組みを作っても運用で壊れるポイントを押さえます。
決めるべき最小ルール
新規作成できる人を絞ることが最初の一歩です。全員が自由に増やすと崩壊します。会社マスタの更新責任者を置くことも欠かせません。営業任せにすると、誰も全体を見なくなります。
名寄せの例外ルールを明文化することも重要です。フリードメイン、代理店、グループ会社など、判定に迷うケースは事前に決めておきます。そして「どれが正か」を示すフラグを用意しておくと、統合途中でも迷子になりません。
ポイントは、ルールを増やしすぎないこと。運用できないルールは、ルールがないのと同じです。
まとめ
重複が増える原因は、だいたい次の一言で説明できます。「同一判定のルールが、入力経路ごとに違う(または存在しない)」ということです。
だから、潰し方もシンプルです。会社と人物のキー(識別子)を決める。会社マスタと人物マスタを分ける。登録フローに「候補提示」を挟む。週次で少しずつ統合作業を回す。新規作成の権限と更新責任を置く。
ここまでできると、スプレッドシートでも「壊れにくい顧客管理」に近づきます。